中国の人民元は現在、中国政府が為替をコントロール下に置いている。だが、米政府や議会、米国民は、人民元が対ドルで不当に安く設定されており、そのせいで米国製品の競争力が落ち、国内の工場が減るなど雇用が奪われていると不満に思っているのだ。
そのため、米国は夏頃から、中国政府に向けて「人民元切り上げ」の圧力を高めている。米中のこうした通貨対立の構造がわかれば、9月15日に実施された日本の「為替介入」の先行きも読めてくる。
経済評論家で作家の三橋貴明氏は、「市場介入のタイミングがあまりにも悪すぎた」と指摘する。
米国では9月15日から上下両院で人民元問題を話し合う公聴会が開かれ、議員は中国を「為替操作国」に認定し、制裁措置を課すよう財務省に迫っていた。まさにその時、日本が単独介入を行なったことで、米下院歳入委員会のレビン委員長は、「利己的な為替介入を行なっているのは中国だけではない。日本もそうだ」と厳しい口調で批判した。
三橋氏が続ける。「中国政府による人民元の管理は、為替介入と同じこと。もしここで日本の介入を容認すれば、中国の為替政策も認めざるを得なくなる。だから、日本の為替介入は米国の虎の尾を踏んだことになる」
一方、日本の為替介入は中国にとって追い風になったようだ。尖閣問題で日本叩きを続ける中国国営メディアは、こと為替介入の件に関しては「あらゆる国にとって為替安定は重要だ」と、日本を支持する姿勢をとっている。
※週刊ポスト2010年10月8日号