金正日の専属料理人を務めていた日本人、藤本健二氏はこれまでに知られざる金ファミリーの素顔を明らかにしてきたが、当初から一貫して「次の後継者は三男の(正恩)ジョンウンで間違いない」と主張してきた。その三男への世襲問題が注目を集める今、藤本氏が正恩氏のカリスマ性を物語るエピソードを紹介した。
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実際、私がじかに接した経験からしても、度量や器の大きさという点で、正恩王子は兄をしのいでいた。
たとえば、正恩王子は幼い頃から私のことを「藤本!」と呼び捨てで呼んでいたのに対し、兄の正哲王子は「藤本さん」と「さん付け」だった。酒やたばこも、正恩王子が10代から親しんでいたのに対して、正哲王子の方はあまり好きではなさそうだった。
また、リーダーシップという点でも正恩王子は早くからその才能を見せていた。兄弟はともにバスケットボールが好きで、それぞれが学友や招待所詰めの軍隊などを呼んで自分たちのチームを作ってよく試合をやっていたが、招待所内でバスケットボールの試合が終わると、正恩大将は必ず自分の選手たちを集めて“反省会”をしていた。その際には、必ず試合を総括して、活躍した選手には「さっきのシュートはとてもよかった」と手を叩きながら褒める。逆に、ミスをした選手には、たとえ年上でも、どこが悪かったかを具体的に例を挙げて厳しく叱っていた。
10代半ばでそうしたリーダーシップをとれるだけでもすごいが、自分が叱りつけた選手について、後で「あんなに怒鳴ったけれど、大丈夫かな」と、笑みを浮かべながら語っていたのも印象的だった。つまり、叱ることも計算ずくなのだ。どうやったら人の心を掴み、人を動かせるかわかっているようだった。
※SAPIO 2010年10月13・20日号