厚生労働省の郵便不正事件で、大阪地検特捜部の主任検事だった前田恒彦容疑者(43)が証拠品のフロッピーディスク(FD)を改ざんしたとして証拠隠滅の容疑で逮捕された。この改ざんの事実を告発したのが、前田容疑者の部下だった女性検事のAさんだ。
時は村木さん公判中の今年1月30日、土曜日の午後にさかのぼる。大阪地検のその一室には、ただならぬ緊張感が漂っていた。
佐賀元明・特捜部副部長(当時)と机を隔てて向き合って座っていたのは、Aさんと2人の同僚男性検事。この日、Aさんは休日にもかかわらず、神戸市内の自宅から副部長を呼び出していた。
Aさんが意を決したように切り出した。
「村木さんは無罪です」
そして、部下として知った上司・前田容疑者によるFD改ざんの事実を、副部長に告げた。特捜部内で行われた“犯罪”が明るみに出た瞬間だった。
「これは大変なことです。公表すべきです。きちんと調べてください」
涙ながらに副部長に訴えるAさん。だが、その涙の訴えは聞き入れられなかった。副部長は前田容疑者の「FDをいじった可能性はありますが、過失です」という説明を信じたのだ。
Aさんらの告発内容は、副部長から特捜部長、地検トップの検事正、さらに上級庁である大阪高等検察庁の刑事部長にまで報告されたが、「問題ない」と判断され、そのまま封印されてしまう。納得のいかないAさんらは特捜部長に直訴。しかし、あくまで「公表すべき」とするAさんに対し、特捜部長は、
「まあ、待て」
そういって議論を打ち切ったとされる。
「大阪地検と高検では、女性検事の考えすぎだろうということで、問題を表沙汰にしないことにしたのです」(司法記者)
しかし、その8か月後の9月21日。朝日新聞朝刊の1面トップに〈検事、押収資料改ざんか〉の大見出しが躍った。報道を受け、最高検察庁はすぐに捜査に乗り出し、同日のうちに、前田容疑者を証拠隠滅の疑いでスピード逮捕。さらにAさんらの告発を受けていた当時の特捜部長、副部長に対しても事情聴取を重ねている。
※女性セブン2010年10月14日号