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日野原氏 人は「社会のため」と言うが本当は「自分のため」

『生き方上手』などの著作で知られる、聖路加国際病院理事長の日野原重明氏。齢100歳を前にしても精力的な活動を続けているが、「生き方」と裏表にある「死に方」についてはどう考えているのか。1994年にベストセラーとなった永六輔著『大往生』を、日野原氏がかつて解説していた。(週刊ポスト1994年7月8日号より)

――『大往生』が、飛ぶように売れている。

「表紙がいいですね。岩波新書の例の赤字に、黒い文字で『大往生』。実に、おめでたくていい。伊丹十三監督『大病人』に匹敵する素晴らしいネーミングだと思う。老い、病い、死、仲間、父という目次/章タイトルは、歌舞伎文字ですよ。実に、明るくていい」

――悲しいけれど、ジメジメしていない。

「もはや、死は忌むべきものではない、という強烈なメッセージがこめられている。作家や医者が、頭の中で創作した“死”ではなくて、庶民の生の声が伝える“死”をちりばめて、綴った本だからだと思います。“ただ死ぬのは簡単なんだ。死んでみせなきゃ意味がないよ”という言葉もあった。死んでしまう時代から、死んでみせる時代がはじまっているということでしょうね」

――“長寿のどこがめでたいのか”という言葉もあった。

「永さんは、“長命社会”より“長寿社会”を考えるべきだ、と提言されている。いまの医療はまさに長命医療なんです。“寿”という言葉は、老子によると“死しても亡びざる者”という意味なんです。“命”は短くても、“寿”が長いことのほうが、私は大事だと思う」

――太く生きよ、と?

「人生80年として、寝てるのが3分の1。残りは、食うため出世のため家族のため……自分のために使う時間です。口では“社会のため”といいながら、自分の財産とか名誉のために寿命を示す時を投資している。問題は、残る命を、遠からず亡くなってしまう自分のために使うか、なくならない何かのために使うか……」

 日野原氏の言葉の中に、死生観の分かれ目を見いだすヒントが垣間見える。

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