『ゲゲゲの鬼太郎』著者である水木しげる氏は、戦争を生き延びた経験から、「人間の幸せ」については深い関心をもっている。そんな水木氏が『水木サンの幸福論』(日本経済新聞社刊)の刊行にあたり、ユニークな幸福論の核心を本誌インタビューで語ってくれた。(『週刊ポスト』2004年7月2日号より)
<第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行なってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる>
以上が本書の掲げる<幸福の七カ条>である。しかし幸福などという言葉はあまり使わんほうがいいよと、前提を覆すようなことをいう。
「幸せとか幸福とか、しょっちゅう考えている人は、案外幸せにはならんようですよ。
まずは仕事は大事です、メシを食わんといけないからね。仕事に勝たなきゃならんからそれでもう精一杯。ただ仕事ばかりやっとるようでも幸せでないし、幸せなんてムツカシイものは『ない』と考えたほうが、かえってうまくいく。
幸福というのはたぶん戎(えびす)サンや大黒サンと同じ。ありもしないものをあるように拵(こしら)えてみんながお願いをする。だけど本当は何もないです、ないから、でも欲しいから、いろいろと拵えて。その点、こんな状態が幸福と感じる習慣が水木サン(水木氏は自分のことを“水木サン”と呼ぶ)にはベビイのころからない。幸福は求めるより、与えられるという感じのもので、結局は成り行きに任せるしか、しようがないのです」
自身の幸不幸には無頓着なのに、周囲には幸せだとよくいわれるのはなぜだろう。それはエラクなったからでも金持ちになったからでもなく<好きな道で六十年以上も奮闘して、ついに食いきったからです>。食いきった・・・・・・強い言葉ではないか。