「日本人の生き方」を論じた司馬遼太郎著『坂の上の雲』と平成日本人を考えるとき、中曽根康弘・元首相は、「自分の国土、自分の生活、自分の世界、そうしたものに徹して懸命に生きなさいと、司馬さんはいってくれているように思います」と語る。以下、中曽根氏の談。(週刊ポスト2009年10月2日号より)
「おそらく近代日本は40年周期くらいの波で動いているように思う。明治の初めから日露戦争までが一期、大東亜戦争までが二期、00年までが三期、それから今が四期の途中だが、あるべき日本の像が見えていないのが現在でしょうね。その像はそう簡単に見えはしないよ。我々はまさに「21世紀の坂の上の雲」を探すさなかにいる。
だからこそ、それまでとは全く違う時代に立ち向かった明治人の不屈の魂、あるいは国家観念、日本文化の独自性といったものが、この作品から手に取るように感じられるんだね。
なかでも国家観念というのは誰かに強制されて身につくものではなく、その本来的で原初的な「国家と国民」や「国と個人」の関係を、この『坂の上の雲』の中には目に眩しいほど見つけることができる。
しかし、国家観念は太平洋戦争に至るまでの間に教育等を通じて強制され、戦後は国家について考えること自体が罪悪であるかのように追放されてゆく。
ただ、最近はようやく、その国家を取り返そうという気運が高まっているように私は思います。共同体や歴史的存在としての国家を見つめ直そうと、「国民国家」のあるべき姿を、国民の側から希求し始めている」
そして中曽根氏は、誰かに強制されなくとも一人一人がそれぞれの国について考えられるようになったとき、日本は真の意味で大国になれる。今、ようやくその道を歩みはじめている、と語っていた。