やっぱり男は戦争映画が好きなのだ。各界の映画通30人に忘れられない名作・大作・傑作を選んでもらい、ランキング化した。洋画部門の2位に輝いたのは『ディア・ハンター』。二宮清純氏(スポーツジャーナリスト)に聞いた。
【あらすじ】ベトナム戦争で捕虜となった過酷な経験で、心身に深い傷を負った3人の若者の生と死を描いた衝撃作。命を懸けたロシアン・ルーレットという緊迫したシーンを通して、戦争の悲劇性を浮き彫りにした。
【二宮氏による解説】
「この映画の中で最も印象に残るシーンは、やはりロシアン・ルーレットだろう。捕虜となった米兵同士で一発だけ弾丸を込めたリボルバーを打ち合う狂気じみたこのシーンには、とても正視できない緊迫感があった」
「私がこの作品を観たのは大学生の時だが、同世代の若者たちが突然このような狂気の世界に巻き込まれていく姿を見て、平和と戦争は決して別世界のものではなく、地続きであることを痛感させられた。この作品が描いているのはアメリカ側から見たベトナム戦争の悲劇だが、実際にはベトナム側にはそれ以上の悲劇と犠牲があった」
「こうした点を描き切れていないという批判もあるだろうが、それを考慮してもなおこの映画が発信しているメッセージは重い。それはどんな平和な日常を送っていても、ひとたび戦争が起これば悲劇と狂気が待っているということではないだろうか。この映画においてロシアン・ルーレットは平和と戦争をつなぐブリッジのような役割を担っているのだ」
※週刊ポスト2010年10月8日号