税は国家の基本であり、経済や社会構造の変化で見直しが必要になっても、国民生活を一気に苦しくすることがないような配慮をするのが政治指導者に求められる責任である。
菅直人政権以前の政権は、大きな税制改正をする場合には必ず減税とセットで行なった。1988年に消費税を導入した竹下内閣は、所得税を大幅に減税して「増減税なし」という形を取り、後の村山内閣でさえ消費税率5%へのアップは減税と抱き合わせにした。逆に小泉首相は「消費税は上げない」といいながら数々の控除廃止、年金保険料引き上げで国民負担を巧妙に増やした。
菅政権が危険なのは、軽自動車から環境税、所得税、相続税まで、官僚が求めるあらゆる増税に手を付けた後、そのうえで消費税を大幅に引き上げるという、国民から見れば「無差別連続増税」を企んでいることだ。
「玄葉試案」と呼ばれる消費税増税シナリオがある。
菅内閣発足間もない今年6月下旬、玄葉光一郎政調会長(当時)を中心に、財務省出身の古川元久・官房副長官(当時)など菅側近の一部と財務官僚が練り上げたとされる増税計画だ。
内閣府幹部が語る。「消費税率を2012年から2%ずつ5年間にわたって15%まで引き上げる案が軸になっていた。このシナリオなら、国民は翌年には税率がまた上がるとわかるから、毎年駆け込み需要が発生し、景気がいっぺんに冷えることはないという判断だ。菅政権はこの案で自民党との与野党協議を呼びかける方針を固めている」
菅内閣の消費税増税方針は参院選で国民の激しい批判を浴びたが、菅首相がこのシナリオを決してあきらめていないことは、代表選さなかの8月下旬、内閣府のホームページに「経済財政モデル」という資料がこっそりアップされたことからもわかる。
資料には、シナリオ通りに消費税を毎年2%ずつ5年間に引き上げた場合の経済指標が試算されている。この増税計画なら消費者物価は毎年1.5%程度押し上げられてデフレが解消され、1年目に約3兆9000億円、5年目には約4兆6000億円の増収となり、その結果、5年間で国債残高(GDP比)が大きく減るという夢のような話である。
菅首相は内閣改造でその玄葉政調会長と古川副長官を政権中枢に残し、いよいよ増税戦略の実施に着手した。産経新聞編集委員で、消費税増税は大不況を招くと警鐘を鳴らし続ける田村秀男氏が語る。
「この試算は、『いい増税もある』と増税と経済成長の両立という幻想を振りまく菅首相には好都合な内容だが、過去、橋本内閣で実施された消費税増税と緊縮財政が深刻なデフレを招いたのは歴史が証明している。菅首相が増税で景気拡大できればノーベル経済学賞ものだろう。しかし、今の日本経済は首相の夢物語のような増税論に国民生活を委ねる余裕などない」
菅政権は、マルクス経済から、せいぜいケインズくらいしか知らない左翼学生の生き残りと、自分のサイフしか興味のない官僚が結びついた恐怖の増税政権といえる。
※週刊ポスト2010年10月8日号