9月30日、北朝鮮・金正日総書記の後継者とされる三男「正恩(ジョンウン)」氏の顔写真が公開された。そんな正恩氏について金正日の専属料理人を務めていた日本人、藤本健二氏が語る。(なお、藤本氏は北朝鮮在住時に使っていた呼称として、金正日を「将軍」、その息子たちを「王子」と呼んでいる)。
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あれは、2000年8月に元山の招待所から平壌に戻る専用列車の中でのことだった。正恩王子は当時、スイスの学校に留学中だったが、夏休みのため帰国していた。列車が夜11時に出発してまもなく、正恩王子が私の部屋にやってきた。それから娯楽室に移り、朝4時頃まで実に5時間近く2人でとりとめもない話をしたのだった。
その際、印象的だったのは次のような言葉だった。
「わが国は、アジア(のほかの国)を見ても、工業技術がずっと遅れている。わが国で誇れるのは地下資源のウラン鉱石ぐらいだろう。招待所でも停電が多いし、電力不足は深刻だ」「日本はアメリカに(戦争で)負けたんだよね。でも、そこから復活したのは凄い。商店にも、品物があふれんばかりにある。わが国はどうだろうか?」
17歳にして、すでに国や国民のことを考え始めていたのだ。もしかしたら、この前後に正恩王子は将軍から「いずれお前が国の指導者になる」と声をかけられたのかもしれない。
※SAPIO 2010年10月13・20日号