ある日突然「北朝鮮有事」が現実のものとなったとしても、現行法制の下で、自衛隊は防衛出動が発令されるまでに厳格な武器使用制限など数々の法的な問題をクリアしなければならない。それでも、もし日朝が一戦交えたら。元航空自衛官の潮匡人氏による驚愕のシミュレーションを紹介する。これは201X年9月29日に北朝鮮国内で急変事態が発生し、日米韓の防衛当局が協力関係の構築に乗り出していた――という設定である。
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まず、海自の対潜哨戒機P3Cオライオンと、最新鋭の哨戒機P1が日本海に展開。空自のAWACS(早期警戒管制機)も出動した。海自の対潜哨戒能力は世界トップレベルにある。たとえば、哨戒機P3Cオライオンは四国と同等の範囲の海域を監視できる。後継機のP1は、さらに飛行性能や探知能力、攻撃力が向上している。また、AWACSの探知レーダーはあまりに強力なため、地上での使用が禁止されているほどだ。地上配備の新型ガメラレーダーは、弾道ミサイルの航跡も捕捉可能な高性能を誇る。北朝鮮側の動きは逐一、米軍に通報された。
また、北方に配備されていた空自のF15イーグルをはじめとする戦闘機などの主要装備が次々と西方に機動展開された。導入当時「世界最強の制空戦闘機」と言われたF15イーグルの性能は北朝鮮の旧世代機を凌駕する。
緊張が続く中、米軍の偵察衛星KH13の画像、米NSA(国家安全保障局)の通信傍受に加え、日本の防衛省情報本部電波部が収集した電波情報を分析した結果、北朝鮮の地下ミサイル基地で「ノドン」と見られる移動型弾道ミサイルが発射準備段階に入ったことが確認された。ノドンは射程1300kmで、ほぼ日本全土が標的となる。
海上自衛隊は「こんごう」などスタンダード・ミサイルSM3を搭載するイージス艦を日本周辺海域へ展開、警戒を強化した。空自のペトリオットミサイルPAC3も首都圏などに展開配備された。自衛隊の最高指揮監督者である首相は、防衛省の中央指揮所と直結する官邸地下の危機管理センターに入った。また、米軍横田基地の地下指揮所では「BMD(弾道ミサイル防衛)統合任務部隊長」の航空総隊司令官が北朝鮮の動きを注視していた。
10月15日、北朝鮮は2基のノドンを連続発射。1基は空中で分解し、日本海に着水。残る1基は海自イージス艦のSM3が迎撃に成功した。日米が共同開発中の「能力向上型迎撃ミサイル」が運用できれば、1隻のイージス艦で足りるが、いまだ試験段階のため、総隊司令官は2隻のイージス艦による迎撃を命じた。
迎撃には成功したものの、空中分解したノドンの破片を追尾できず、艦上や領土上での迎撃に不安を残す結果となった――。
※SAPIO 2010年10月13・20日号