尖閣諸島での衝突は、国内で大きな議論となっている。中国ウォッチャーとして知られ、著書に『中国ひとり勝ちと日本ひとり負けはなぜ起きたか』などがある評論家の宮崎正弘氏はこう分析している。
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尖閣諸島での衝突は、中国が日本の領土に攻め入る絶妙のタイミングだった。なぜなら、日本は民主党代表選で政治空白が続いており、普天間問題をはじめ日米関係が冷却していた時期だったからだ。民主党政権は中国に外交の力量を試された格好だ。
しかし、いくら“外交素人集団”であっても、今回の事件は120%中国に非があるのだから、傲岸不遜な行動には強硬手段で抗うべきだった。船長を早く釈放し過ぎた感は否めない。
どうやら船長釈放までには、水面下で米国が解決策を斡旋していたフシがある。キャンベル国務次官補はクリントン国務長官が前原外相と会談する前から、「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲である」と明言していた。たとえリップサービスであっても、第5条は米国の日本防衛義務だから法的な確約も取れていた。もっとこの発言を重く捉えて抗議していれば、中国も引っ込んだかもしれない。
しかし、日本は米国の提案した落としどころをあっさりと呑んでしまった。だからこそ、船長の釈放後に米国務省は「あれは正しい判断だった」と日本の国民感情を逆なでするような発言をしたのだろう。
また、レアアース輸出停止の件では、長い目で見れば中国のほうが経済的な損失は大きいはずなのに、8月時点のGDPで日本を超えたこともあり、「もう日本に何の遠慮もいらない」という強い自信が窺えた。逆にいえば、経済力とカネさえあれば中国を支配できると考えていた日本政府や日本企業の認識の甘さが浮き彫りになったのである。
しかし、中国に報復措置を取らなければ、領土問題にしても経済問題にしてもなめられる一方だ。中国からの輸入品に対して30%の報復関税をかけるとか、来日が予定されているダライ・ラマ14世と菅首相が面談してもいい。尖閣諸島を海上保安庁任せにするのではなく、海上自衛隊に24時間警備させるのも有効だろう。
2005年に中国で起きた反日暴動と違い、今回は自らの領土をかすめ取られる危機感から、普段は外交に関心の薄い、多くの国民が中国の横暴ぶりに腹を立てた。日本に眠っていたナショナリズムを目覚めさせてくれたという意味では、むしろ「中国よ、反日、ありがとう」というべきだろう。
※週刊ポスト2010年10月15日号