尖閣諸島問題は日中関係に大きな影を投げかけているが、このことを台湾出身の評論家・金美齢さんはどう見ているのだろうか?
これまで東アジアにおける中国との闘いの最前線は台湾でした。状況が一変したのは、2008年の国民党政権の誕生です。いずれ中国は台湾を飲み込み、主戦場が日本に移ることを悟った私は、第二の祖国である日本を守るため台湾国籍を捨て日本人になりました。
中国は譲歩すれば必ずつけ込んでくる国であることを、私はこれまで何度も指摘してきました。もう一度言います。中国は尖閣諸島を取りにきたのです。
中国に向かって日本の考えを発信しても意味はありません。彼らは隣人の話に聞く耳を持たず、自分の都合しか頭にないからです。一歩譲れば二歩攻め込んでくる国であることを忘れてはなりません。
私は中国にものいうつもりはありません。日本政府、および日本人にいいたいのです。阿吽の呼吸で物事を進めるという美徳を持つ日本人と中国人では、メンタリティがまったく違います。彼らと付き合っていくためには、決してぶれることのない強い覚悟が必要です。
あらゆる意味で“素人政権”の民主党にはその覚悟がありませんでした。中国人船長を逮捕するなら、その後に起こる事態を想定して決断すべきでした。菅政権にはその準備すらなかったのです。
小泉政権時代に尖閣諸島で今回と同様のことが起きたとき、政府は即座に国外退去処分としました。コラムニストの勝谷誠彦氏はこの点を踏まえ、自民党政権時代にはできなかった中国人の逮捕を実行した、と民主党を擁護しています。これはとんでもない誤解です。自民党は逮捕後の中国の対応を予測し、そのための準備が当時の日本にないことを自覚して次善の策で追い出したと理解すべきです。
中国の領土的野心の対象は日本だけではありません。南シナ海の南沙、西沙両諸島では、領有権をめぐり周辺諸国が中国と対立しています。それらの国々にとって尖閣問題は他人事ではありません。日本の対応には深く失望したはずです。
中国の巨大な覇権主義に対抗するためには、同じ問題を抱える国々が連帯して抵抗する以外に道はありません。日本の犯した大罪は、それらの国々の信用を失ったということなのです。
※週刊ポスト2010年10月15日号