尖閣諸島で中国漁船が海上保安庁の船に衝突し、中国人船長を逮捕した問題で、9月23日、訪米した前原誠司外務大臣は、クリントン長官との会合で、長官が、「尖閣諸島には日米安保条約が適用される」と述べたと説明し、それを外交成果だと強調した。
嘘もいいところである。この発言は従来からアメリカが踏襲してきた見解にすぎない。今にも領土紛争が起きかねないタイミングで同盟国が助けを求めているのに、従来の見解を繰り返すだけだったことは、むしろアメリカに見捨てられた外交失点である。
現に、日本で「クリントンが尖閣を守るといった」という報道が広がると、ホワイトハウスはすぐさま否定した。9月23日、ベイダー大統領特別補佐官は記者会見でこう語っている。
「日本側で報じられている話は、アメリカの従来の立場をいっているだけだ。アメリカは、尖閣諸島が中国の領土か、日本の領土か、どちらの立場もとらない。日米安保条約は、日本が統治するすべての地域を対象にする。尖閣は日本が統治している。それだけだ」
つまり、「尖閣がどちらの領土かは知らないが、日本が統治しているかぎりは安保の対象。そうでなくなれば対象ではない」という意味なのだ。ならば日本が統治しているかぎりは米軍が守ってくれるのかというと、これも違う。それこそが日本政府が国民に知られたくない対米ポチ外交の核心である。
小泉政権末期の05年、日米は外相・防衛相会合(2+2)で「日米同盟 未来のための変革と再編」と題する合意文書を交わした。
その第2章「役割・任務・能力」に問題がある。
【日本は、弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する】
つまり、尖閣諸島などの「島嶼部」の防衛は、在日米軍ではなく自衛隊の役割と定めたのである。
これを裏付けるかのように、日米外交筋は「米国は歴史的に他国の領土紛争には関与しない立場を取っている。最大の同盟国イギリスとアルゼンチンが領土問題で戦ったフォークランド紛争でさえイギリスを支援しなかった。尖閣についても、今年3月に東アジア担当のセドニー米国防次官補代理が北京で、『尖閣諸島または釣魚島の最終的な主権の問題には立ち入らない。これは米国の一貫した立場だ』と言明している」とも語っている。
※週刊ポスト2010年10月15日号