不都合な調書を破棄し、事実とは異なる供述を誘導し、果ては証拠を改ざんして、無実の者を有罪に仕立て上げようとした――。なぜそんな検察の調書に被疑者はサインをしてしまうのか。去る9月に実刑が確定して失職、間もなく収監される鈴木宗男・前代議士、そして検察の裏金問題を告発した直後に逮捕され服役した三井環・元大阪高検公安部長が語り合った。
――どうして被疑者や証人は検察の作文調書にサインしてしまうのか。
三井:それは、中に入ったことがない人には説明が難しいのですが、毎日、検事と10時間ぐらい向き合っていると、その検事を信用してしまうのが一つ。また、たとえ嘘でも検事から「他の容疑者はこういっているぞ」といわれれば、記憶があやふやになって、「そうだったかもしれない」と思ってサインすることも多い。
鈴木:新聞が読めないから情報が何も無い。話し相手が検事だけだから、だんだん優しく見えてくる(笑い)。それに、立場の弱い容疑者や証人は、家族や会社のことを取り調べの際に持ち出されれば、早く解放されたいという思いでサインしてしまう。ただ、私は自分が話していない調書はすべて蹴っ飛ばした。そのために437日も勾留された。
――サインしなかった調書には何が書かれていたのか。
鈴木:簡単にいえば、「私は悪いことをしました。行政に圧力をかけました」という話です。検事たちは司法試験に合格したエリート集団。そうしたシナリオを書くノウハウを訓練されているんですね。
三井:検事の採用に作文試験はありませんが(苦笑)、調書の作成は徹底的に叩き込まれます。私が高松地検の次席検事だった頃は、部下の作った調書は被疑者がサインする前に持ってこさせて、有罪に持ち込むストーリーに合うように私が添削しました。3分の1くらいをゴッソリと削除したこともあります。現場検事たちはそうやって“調書作り”の腕を磨いていく。
特捜案件の場合、ストーリーを作る統括役が特捜部長。それに従って検事たちが脅したりすかしたりして虚偽の調書を作っていくわけです。被疑者や参考人を調べる検事は応援を含めて10人、20人以上になる。バラバラに調べていたら(勾留期間の)20日間のうちに事件はまとめられない。
――「部長、筋が違います」という検事も出てくるのではないか。
三井:いないでしょうね。稀にいたとしても、その検事は捜査から外される。つまり、ストーリーを作る者と、それに合致した調書を作る者が出世していく構造なのです。
司会・構成■佐藤篤司(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2010年10月15日号