「少々旧聞に属することは承知の上で、菅直人首相が小沢一郎氏に勝利した民主党代表選挙を振り返っておきたい」そう語るのは大前研一氏だ。なぜなら、メディアが両陣営の動向と票読みに狂騒したあの“茶番劇”は、日本の政治家とマスコミの「知的レベル」の低さを、これでもかとばかりに露呈したからだという。
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まず、呆れさせられたのは、菅首相と小沢氏が選挙期間中に自分たちを幕末の志士になぞらえ、それをマスコミが批判するどころか、便乗するかたちで政治を論じたことである。
小沢氏が西郷隆盛と大久保利通への尊敬の念を表す一方、臆面もなく自らの政権を「奇兵隊内閣」と命名した菅首相は「高杉晋作が好きです」と語り、高杉と西郷、大久保を対比してみせた。
マスコミも、“小沢氏は(周囲に担がれる形で勝ち目の乏しかった西南戦争を戦ったとされる)西郷になろうとしている”などと面白おかしく解説した。
しかし、もしイギリスで、自らをチャーチル(元首相)になぞらえる政治家がいたら、周囲から袋叩きに遭うだろう。あるいは、オバマ米大統領の演説を聞いた人々が「リンカーンに似ている」と評したように、第三者による意見なら理解できるが、政治家が自らを語るのに、自身の言葉を頼むのでなく、歴史上の人物を使ってイメージ作りをするとは正気の沙汰ではない。
※週刊ポスト2010年10月15日号