おぐにあやこ氏は1966年大阪生まれで元毎日新聞記者。夫の転勤を機に退社し、07年夏より夫、小学生の息子と共にワシントンDC郊外に住む。著書に『ベイビーパッカーでいこう!』『魂の声 リストカットの少女たち』。そのおぐに氏が明かす。
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日本人駐在員の有名な失敗談に、「愚妻」発言というのがある。
たとえば、あなたが上司の家に夫婦して招かれたとする。日本ならば「これが私の愚妻でして……」というのは立派な謙譲語だ。へりくだり、相手に敬意を示す表現といえる。あるいは同僚に「まいっちゃうよ。うちの愚妻がさぁ」なんてこぼしたら、「またカミサンのノロケかよ」と受け止められちゃうかも。つまり日本語の「愚妻」は謙譲語であり、時には妻自慢にすらなりうるのだ。
だから生真面目な駐在員ほど、アメリカに来ても「愚妻」を英語に直訳し、「This is my stupid wife(これが私の愚かな妻でして)」なーんていってしまうらしい。
でも、アメリカの妻同伴パーティでこんな発言をしたら、さあ、大変! 周囲のアメリカ人は「こ、こいつ何をいい出すんだ?」「そんなに夫婦仲が悪いのか」と表情をこわばらせるだろう。そして、あなたは将来にわたって、「abusive husband(虐待夫)」と陰口をたたかれ続けるのだ(もっとも、愚妻発言をした駐在員なんて、噂ばかりで実際には会ったことがない。都市伝説じゃないのかなぁ)。
ならば、アメリカ人は妻を他人に、どう紹介するのだろう?
「これが僕の世界一素晴らしい妻です」とか「僕の最大の理解者です」とか、よくもまあ、そこまで人前で自分の妻をホメ倒せるなぁ、とこちらがあきれてしまうほど、歯の浮くような言葉で、ホメて、ホメて、ホメまくる。うらやましいのを通り越して、ちょっと不気味かも。
※週刊ポスト2010年10月15日号