北朝鮮は“異常な国家”だからまともな交渉などできない……そういった考えは間違いだと元外務省主任分析官の佐藤優氏は喝破する。一見デタラメな北朝鮮の外交の基本目的と、それに対する米国の反応を読み解いていけば、停滞してしまった日朝間の交渉に新たな可能性を見出せる。だが、機を逃せば新たな道は完全に閉ざされてしまうという。日朝交渉は今、大きな岐路に立たされている。以下、佐藤氏が北朝鮮外交の基本目的を解説する。
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北朝鮮は独裁国家なので、外交交渉が難しいという意見がよく聞かれる。筆者はそう思わない。確かに北朝鮮は、他国民を拉致したり、核兵器や弾道ミサイルなどの大量破壊兵器を開発したりするなど、国際社会で一般に受け入れられた「ゲームのルール」と異なる行動を取る。その意味で北朝鮮とは普通の外交とは異なる交渉を行なわなくてはならない。
しかし、それは北朝鮮が、デタラメな外交をしているということではない。北朝鮮は明確な方針を持つ。筆者が見るところ、北朝鮮外交には2つの基本目的がある。
第1は、金王朝を維持することである。北朝鮮指導部は力の論理の信奉者だ。だから、金正日体制の安全を保障することができるのは、米国だけだと考えている。対米交渉が北朝鮮外交の要なのである。6者協議は米朝交渉の環境を整備するための存在だ。表には出ていないが、米朝間では既にインテリジェンス機関の接触が行なわれていると見るのが、インテリジェンス関係者の常識だ。
第2は、北朝鮮の経済発展のために外交を展開することだ。北朝鮮は日本に金正日体制の安全を保障する能力はないと見ている。ゆえに、日本に期待するのは経済だけだ。
※SAPIO2010年10月13・20日号