日本の近現代史に刻まれた代表的な遺書は、時を超えてなおわれわれの心を打つ。文芸評論家の富岡幸一郎氏が、戦後の大スター・石原裕次郎の遺書を紹介する。
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戦後の国民的スターであった石原裕次郎。昭和五十六年、生死をかけた大動脈瘤手術の直前に、まき子夫人に一枚の便箋に鉛筆でこう走り書きされていた。
【私儀石原裕次郎は左記するあらゆる物件(不動産、動産、有価証券、貴金属、指輪、古美術、絵画、車、ヨット)を妻・まき子に譲る】
「物件」としての財産目録が別に細かく記載されていたというが、この一行の自筆によって遺書を法的な効力のあるものにしたかったのだろう。簡潔なだけに妻への思いのこもった自筆であった。
※週刊ポスト2010年10月22日号