円高が長期化する気配を見せている。政府・日銀が6年半ぶりに解禁した円売りドル買いの為替介入も効果は薄く、1ドル=84円台で上下しながら「防衛ライン」の探り合いが続いている。円高の過去最高値は1995年4月19日の79.75円。当時と比べれば、まだ耐えられる余地があるとみる向きもあるが、実はすでに危険水域に入っている、と大前研一氏が指摘する。
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現在の危機的状況を理解するには、1995年当時と現在の円高を取り巻く環境の変化を知らねばならない。15年前と今では大きく二つの違いが挙げられる。
第1の違いは、1995年当時は米欧が協調介入したが、今回はアメリカもEUも自国通貨安を放任しているという点だ。アメリカのオバマ政権にとって焦眉の課題は「景気回復」と「雇用創出」である。11月の中間選挙の帰趨にも大きな影響を及ぼす失業率を改善するには、景気を良くして雇用を増やさねばならない。
そのためにはドルは安いほうがいい。ドル安になればなるほど輸出競争力がついて景気回復につながるからだ。最も手っとり早い雇用対策は公共投資ではなく、自国通貨安なのである。
第2の違いは、日本の製造業の国際競争力だ。95年当時は日本企業の技術力や市場シェアが圧倒的だったため、円高差損は価格に転嫁(値上げ)し、生産性を上げることで吸収できた。
しかし、今は状況が全く違う。韓国企業と台湾企業が強力なライバルになった。しかも、韓国のウォンは3年ぐらい前に比べると円に対して50%ほど安くなり、台湾ドルも米ドルリンクだから下がっている。為替が追い風になっている韓国企業と台湾企業は値下げできるが、日本企業は値下げできず、値上げすれば即座にシェアを失うことになる。
そもそも日本の就業人口の大半は国際競争力のない産業に従事している。日本が輸出絶頂期の1980年前後でさえ、国際的に見て生産性が高くて競争力もある産業に従事していた人は、就業人口全体の13%にすぎなかった。おそらく今は半分以下になっていると思われるので、これ以上、国際競争力のある製造業が海外に出て行ったら、日本は由々しき事態になるだろう。
※週刊ポスト2010年10月22日号