9月15日に、政府・日銀による「円売り介入」が行なわれた。民主党の代表選挙の結果が出た翌日であり、菅直人首相が続投すると円売り介入の可能性が減る、と為替市場が予想していた矢先の介入だったため、ある程度のサプライズ感はあった。
その結果、一時1ドル=82円台まで突入した米ドル/円レートは、85円台まで円安が進み、政府・日銀からは、介入を継続するとのコメントが表明された。しかし、その後、じりじり円高は進み8日には1ドル=81円台にも突入した。今後のドル/円相場の行方を為替のスペシャリストで酒匂・エフエックス・アドバイザリー代表、酒匂隆雄氏が占う。
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前回の為替介入は、03-04年にかけて、今回と同じく日本のみの単独で行なわれた。今回の介入は、前回ほどの長期間にわたって行なわれるかどうかは不明だが、効果があるかについては疑問である。
今回実施された介入の目的が、「Smoothing operation」(スムージング・オペレーション)=「相場の乱高下を穏やかなものにする介入」であれば、ドル/円レートをより円安方向に持っていくような「押し上げ介入」はできないだろう。それはおそらく、米国が許さない。米オバマ政権は、ドル安による輸出増加を、景気を回復させるための手段として明確に位置づけているからだ。
また、介入の規模、持続性についても大きな効力はのぞめない。先日、国際業務を展開する銀行の監督機関であるBIS(国際決済銀行)が発表した調査では、1日の平均的な為替取引の総額は全世界でおよそ4兆ドル(約340兆円)だという。そのうち、ドル/円の取引は14%を占めているとされる。つまり、1日のドル/円の取引高は50兆円程度である。
03-04年にかけて行なわれた前回の介入は、大規模とされたが、総額は35兆円ほどであった。これは、現在の1日のドル/円の取引高よりも少ない額である。さらに、前回の介入は、介入直後こそ円安に戻したが、その介入の効果が切れた後は円高局面が続いたため、当時、政府・日銀が買ったドルは大きな含み損を抱えている。
介入資金となる外国為替資金特別会計は数兆円の赤字となっており、大規模な介入を持続できる余裕はほとんどないと思われる。
為替市場が、今回の介入はスムージング・オペレーションに止まる、と日本の政府・日銀のスタンスを見透かせば、投機筋が円買いを仕掛けてくる可能性は高い。しばらくは、ドル/円の防衛ラインを巡る、投機筋と政府・日銀による駆け引きが続くだろう。
※マネーポスト2010年11月号