今年7月、NHKのスポーツ記者が、大相撲の野球賭博事件で捜査対象になっていた時津風親方に、警察が家宅捜索に入ることを事前に携帯メールで知らせていた件で、新聞やテレビは、情報を漏洩した記者に痛烈な批判を浴びせた。「国民の知る権利が阻害される」「証拠隠滅の恐れがある」のだそうだ。
「記者倫理を踏みにじる愚行で、怒りを禁じ得ない」(10月10日付産経社説)
「自由な報道で国民が情報に接する民主主義の根幹を揺るがしかねない」(同日付朝日社説)
槍玉に挙げられたのは、NHK報道局スポーツ部に所属する30代のK記者。時津風親方に、警察が家宅捜索に入ることを事前に携帯メールで知らせていた。この情報は他社の記者から知らされたものだったとされる。
新聞やテレビのいう「証拠隠滅の可能性」とは、とても本気でいっているとは思えない。相撲協会幹部が語る。
「家宅捜索が行なわれる前から、警察の捜査には協力するように協会内に指示していた。各部屋は弁護士からレクチャーを受けていたので、捜索があることもわかっていた」証拠を隠そうと思えば、いつでもできたわけである。
だいたい、捜索当日はNHKはじめ、すべての記者クラブメディアが、早朝から相撲部屋の前にズラリと並んでいたので、“今日、家宅捜索がありますよ”と相撲部屋に教えていたも同然だ。捜索を受けた相撲部屋関係者は「『これから警察が来るよ』と教えてくれたカメラマンがいた」と証言する。
K記者が親方にメールしたのは捜索の9時間前で、他のメディアは直前だからよかった、とでもいうのだろうか。協会と“ズブズブ”だったのは、K記者だけではないのである。
※週刊ポスト2010年10月29日号