証拠改ざん事件で厳しい批判にさらされている地検特捜部。実際にどのような取り調べが行なわれているのか。検察捜査に詳しい伊藤博敏氏が実態を明かす。
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特捜検事が、自供の供述調書を取ろうと必死になるあまり、殴る蹴るの暴行を加えていたことが明らかになった事件がある。1993年に事情聴取中の参考人を暴行したとして「特別公務員暴行陵虐致傷罪」で告訴され、懲戒免職処分を受けた金沢仁検事(当時33)のケースである。
殴る蹴るだけではない。「半殺しにしてやる!」と叫び、椅子を蹴飛ばして転げ落とし、床に正座をさせる。また、気をつけの姿勢でカベから15センチの至近距離に立たせ、目をいっぱいに開かせて、少しでも動くと尻を蹴ったのだという。
この“拷問”は、特捜部の伝統のようで、リクルート元会長の江副浩正氏が上梓した『リクルート事件・江副浩正の真実』(中央公論新社)には、神垣清水・東京地検特捜部検事(当時)の凄まじいまでの取り調べが記されている。
「『立てーっ! 横を向けっ! 前へ歩け! 左向け左!』。壁のコーナーぎりぎりのところに立たされた私の脇に立って、検事が怒鳴る。『壁にもっと寄れ! もっと前だ!』
鼻と口が壁に触れるかどうかのところまで追いつめられる。目をつぶると近寄ってきて耳元で、『目をつぶるな! バカヤロー! 俺を馬鹿にするな! 俺を馬鹿にすることは国民を馬鹿にすることだ! このバカ!』」
密室での取り調べ。20畳ほどの検事の部屋にいるのは検事と被疑者を除いては、“置き物”と化してパソコンでメモを取る検察事務官だけ。証拠は残らない。
過去、事件化した非道の取り調べは、金沢元検事の事件以外は、1994年に元市議が検事に机を投げつけられて腕に全治3週間の怪我を負った「つくば市汚職事件」や、同年に検事が会社幹部の顎を殴って重傷を負わせた「国際航業事件」など、外傷が残った場合に限られる。
1990年代半ば、若手検事によるこうした暴行事件が続いたことから、検察幹部は取り調べでの暴力禁止を徹底、さすがに最近はその種の被害は聞かない。だが、自白させるために何でもする体質に変わりはない。
※週刊ポスト2010年10月29日号