大相撲の野球賭博事件で捜査対象となっていた時津風親方に、NHK報道局スポーツ部に所属する30代のK記者が家宅捜索の情報を携帯メールで知らせていた問題。 原則的には、まず非難されるべきは「捜査情報を漏洩した当局」だろう。警察によるリークが無ければ、K記者の情報漏洩はあり得なかった。
証拠隠滅が行なわれる可能性がある情報を捜査員が漏らしたのなら、地方公務員法34条の「守秘義務違反」であり、1年以下の懲役か3万円以下の罰金が科せられる。新聞やテレビはK記者より先に警察を批判すべきなのに、その指摘は皆無だった。
次に非難されるべきは、K記者に情報を流したとされる他社の記者だろう。だが、これも新聞やテレビは「情報源はスポーツ紙記者ではないか」などと犯人捜しをする一方で、情報の横流し自体は一切問題にしようとはしない。
全国紙社会部記者の話を聞くと、その理由がわかる。
「記者クラブに加盟するメディアにとって、捜査当局から情報をリークしてもらうことは当たり前。そして、その情報を他社と共有し、記者同士で教え合うのが記者クラブの常識だ。スクープ情報を取るよりも、他社が掴んでいる情報を自社だけが落としてしまう『特オチ』を避けたいという気持ちが強いので、誰かが捜査官から聞いた情報をクラブ内で回し合うのは、逆に好ましいこととされる」
日本新聞協会研究所元所長で、ジャーナリズム研究の第一人者である桂敬一氏の指摘は鋭い。
「要は、K記者は『クラブ情報を外に出した』から叩かれているのです。記者クラブの中では情報を共有してもいいが、それを外に出したらルール破りというわけ。それなのに、『愚行』などと自らに正義があるような記事を書くのは噴飯ものです」
※週刊ポスト2010年10月29日号