「結婚式場をキャンセルしたいのですが、申し込み金を返してくれません」…そんな相談が弁護士の竹下正己氏のもとへ寄せられた。
【質問】
息子が1年後に利用する結婚式場の予約をし、申し込み金10万円を支払いました。しかし2週間後、他の結婚式場を見た婚約者がキャンセルしたいというので、申し出たのですが、式場側は契約書の解約条項を理由に申し込み金を返してくれません。消費者契約法は適用されないのでしょうか。
【回答】
式場側は、契約書の解約条項を理由に返金しないというのですから、息子さんからの解約は認めるが、予約金は没収できる約定になっているのですね。その場合、予約金没収とは、解約時の違約金の定めにほかなりません。
ご指摘の通り息子さんは消費者で、相手は結婚式場の経営者ですから消費者契約法の適用があり、この場合、同法第9条が関係します。同条では違約金のうち、「解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」部分の違約金を無効としているからです。
そこで、結婚式場の利用契約の違約金の定めが平均的な損害を超えるかどうかがポイントです。平均的な損害とは、事業者は同種の契約を多数締結するのが普通ですから、当該の事業者が、同じような解約により生じる損害を算定し、その平均値を意味するとされています。そこで1年後の予約のキャンセルで生じる損害があるか、あるとして平均値はどれくらいか、ということが問題になります。
式場が、1年前から結婚式の準備作業をするとは考えられず、実費の損害はあり得ないと思います。ただし、予約受付の段階で業者には利益の発生が確定しますから、その式場では1年先の予約が普通であるとすれば、解約によるその利益の喪失(儲け損ない)は、一応平均的な損害といえそうです。
しかし、1年後の予定がキャンセルされたといっても、受付2週間後のキャンセルですから、まだいくらでも新たな予約を受ける可能性があるはずです。もちろん、1年先の予約がさほど多くない場合には、解約による儲け損ないは、平均的損害には当たりません。
息子さんは10万円の返還を請求できると思います。消費者センターに相談してみてください。
※週刊ポスト2010年10月29日号