菅政権が今国会での成立を目指しているのが労働者派遣法の改正案。労働者保護の触れ込みだが、当の派遣労働者からは「みんな正社員になれるわけではない。逆に今の職を奪われることになりかねない」とすこぶる評判が悪い。
誰も喜べないこの法改正を推進してきたのが労働組合だ。大労組にとって、派遣社員は別の会社の社員だから組合員にできないうえ、企業が派遣社員を増やせば正社員のリストラをしやすくなる。つまり組合員(正社員)と利害が対立する“敵”と見てきた。
派遣を禁止して正社員・契約社員にすれば、多くはクビになるが、残ったものは組合に勧誘できる。現に10万人雇用を打ち出した日本郵政グループでは、JP労組が非正規労働者の組合加入に力を入れている。
「連合傘下の労組でも、民間労組には派遣の規制を強め過ぎれば企業の海外移転が進んで雇用が奪われるという慎重論もあった。それでも、労働者の権利強化だと改正を強硬に主張したのは官公労、自治労などの左派と日本労働弁護団です」(民主党政調スタッフ)
その自治労、官公労を政治基盤にしているのが菅首相―仙谷官房長官という現政権中枢コンビである。
経済学者の池田信夫氏が指摘する。
「この不況の中で企業にクビ切りを迫る法律を作ろうとしているのは世界で菅政権くらいでしょう。菅内閣がこんな法律を出したこと自体、経済学も実体経済もわからず、組合や国会対策のため仲間に引き入れたい社民党のご機嫌取りを第一と考えている証拠です」
※週刊ポスト2010年10月29日号