ライフ

1日1200ccも尿が漏れる尿失禁も人工尿道手術で91%が解消

 前立腺がんなどで前立腺全摘手術の際、括約筋を損傷することで起こるのが尿失禁だ。重症では1日1200ccもの尿が漏れ、おむつが手放せず、仕事が続けられないなど日常生活にも不自由が生じる。これらに対する根治治療として注目されているのが、人工尿道括約筋を埋め込む手術だ。尿道に生理食塩水入りの管を巻き、水圧で尿道を閉めることでほとんどの尿漏れが解消できる。
 
 前立腺全摘手術では、括約筋損傷などにより、高い確率で尿失禁が起こる。多くの場合は一過性だが、1-3%で中等から重症の尿失禁が残る。

 軽い尿漏れであればパッドをあてるだけで対応できるが、歩いただけで500ccもの尿が漏れる重症尿失禁では、おむつが手放せない。この状態では外出もままならず、夏はにおいがひどく、また、おむつ代も高額で長期にわたると経済的にもかなりの負担だ。それらの患者の根治治療として期待されているのが、人工尿道括約筋埋め込み手術だ。
 
 東北大学病院泌尿器科の荒井陽一教授に話を聞いた。
「日本では前立腺がんのPSA検診が普及し、年間2万人程度が全摘手術を受けています。仮にそのうちの1%としても、年間約200人が重症尿失禁で不自由を被っていると推計されます。しかし、私の調査では過去17年で人工尿道括約筋の手術を受けたのはわずか100例で、アメリカの年間4000例に比べると格段に少ない結果となっています」
 
 荒井教授が続ける
「手術は1-2時間ほどで終了し、3-4日程度で退院できます。しかし、6週間は使用できません。手術による炎症が治まるのを待つ必要があるためです。その後、再度入院して、ポンプについている停止ボタンを外から解除し、正常に稼働することを確認してからの退院となります」
 
 器具の構造がシンプルなので故障の頻度も少なく、中には20年にわたって使用している例もある。過去に手術した使用例を調査したところ、完全に尿失禁が治まったというのが46%、1日10-12ccほどわずかに尿漏れするという答えと合わせると91%が「生活に支障はない」と答えている。
 
 ただし、常に圧力を受けているため、尿道に穴があく合併症がまれに起こることがある。人工尿道括約筋埋め込み手術は重症尿失禁の唯一の根治治療であり、昨年9月に先進医療の承認を受けた。東北大学病院での治療費は約170万円となっている。

取材・構成■岩城レイ子

※週刊ポスト2010年10月29日号

関連キーワード

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン