今国会で答弁に立った菅直人首相は、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の対応をめぐる野党の追及に、自信満々の様子でこう答えた。「私と温家宝首相との懇談で戦略的互恵関係の推進を改めて確認した」―― 明らかに菅民主党政権は、「融和ムード」を演出しようとしている。しかし、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、「日本の立場を曲げて推進する戦略的互恵関係など無意味で、菅政権の対中外交は決定的な敗北外交だ」と指摘する。
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振り返れば、中国に対して外交的な敗北を繰り返してきたのは、日本だけではありません。チベット、ウイグルはもちろん、ベトナム、インドネシアなどアジア諸国も、ことごとく中国にしてやられ続けています。本誌前号で述べたように、インドネシアも南シナ海で、中国の軍事的圧力により、拿捕した中国漁船を解放させられました。
史実も現実も無視して自分たちが掲げる言葉だけが正しいと考え、それを実現するためには、契約も約束も平気で破る。軍事力、経済力などあらゆる力を動員して相手を屈服させようとする。そんな身勝手な中華帝国主義を押し通す異形の大国に対して、日本がまっとうな国家なら、何としてでも外交のスジを通さなければなりません。
その場合、日本が独自の対中外交でスジを通すとともに、他国との協力関係を活用して日本の立場を強化することが重要です。南シナ海では、ASEAN諸国が団結し、さらに米国の力を借りて中国に対抗しようとしています。
日本が対中外交において単独で行ない得ることに限りがあるとすれば、日米の連携はもちろん、韓国やASEAN諸国との関係強化をはかることです。一国で向き合えば経済的、軍事的に非常に強い圧力に晒されますが、多国間で連携できれば、自ずと中国の圧力も弱まります。
さらにこの中国への対抗軸には、台湾、インド、オーストラリア、ニュージーランドなども含めて、「アジア海洋諸国連合」を目指すのが、日本の生き残りだけではなく、指導的立場の確保につながると考えます。19世紀型の力による領土領海の拡張、いわゆる中華的帝国主義の“被害”に遭っている国が、皆、同じ価値観を持った仲間として連携すべきなのです。
※SAPIO2010年11月10日号