身近にある役所の「おバカ規制」。彼ら役人による規制は往々にして、民間企業の利益や国民の利便性を損ない、税金を無駄遣いしている。今回のテーマは“道路の落とし穴”だ。何気なく歩いたり、運転したりしている「道」に、どんなキケンと弊害が隠されているのか、炙り出していく。元通産官僚で、行革担当大臣の補佐官を務めた、「政策工房」の原英史氏が解説する。
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「セグウェイ」という乗り物をご存じだろうか。かつて、小泉首相がブッシュ大統領からプレゼントされて有名になった、原動機が付いていて、重心を傾けると動く乗り物だ。南アのW杯や上海万博の警備に数百台規模で導入され、ワシントンDCやパリなどでは市内をセグウェイで回る観光ツアーも人気だ。
しかし日本の街中では見かけない。私有地内での乗用以外、認められていないのだ。
根拠は道路交通法の規制だ。道路交通法では、道路を動く物体は、「歩行者」「軽車両(自転車、電動自転車など)」「車両(自動車、原動機付自転車など)」に分類される。
そこでセグウェイがどれに当たるか、である。まず「歩行者」はどうか。原動機付車椅子などの歩行補助車は「歩行者」になるが、これには<6キロメートル毎時を超える速度を出すことができない>(道路交通法施行規則第一条第一項第二号ロ)という条件がある。セグウェイは、時速20km程度は軽く出るので、「歩行者」に該当しない。
次に「軽車両」に当たるか。電動自転車のような原動機付きで軽車両に当たるためには、「ペダルを用いた人力」と「原動機の出力」の比率が数値基準(最大で1:2)以下でなければならない(道路交通法施行規則第一条第三項第一号ロ)。セグウェイの場合、体重移動で動く仕組みなので、これにも当たらない。
では「車両」として走行が認められるかという話になると、国土交通省令「道路運送車両の保安基準」が登場する。そこには自動車などの車両は<制動装置(注・ブレーキ)を備えなければならない>(第十二条)とあり、セグウェイは、重心を戻せば止まるのでブレーキはない。これもダメ。
こうして結局、セグウェイは、道路交通法の世界で「存在しないはずの物体」となり、道路走行が許されないのだ。米国や欧州各国では、とっくに認められているし、地方レベルでも「横浜ウオーターフロントでの利用を期待したい」(横浜市共創推進事業本部)などの声がある。そんな中、旧来の規制を盾に「新発明」を排除し続ける国に、新しい産業やサービスが生まれるだろうか?
※SAPIO2010年11月10日号