尖閣諸島問題で中国は矢継ぎ早に様々な手を打ってきた。とりわけ、レアアースの禁輸には懸念の声があがった。しかし本当の実態はどうなのか、中国に詳しいジャーナリストの吉村麻奈氏が報告する。
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中国が日本に対して次々かける揺さぶりの中で、一番効果があった、とされているのはレアアースの禁輸だった。
レアアースは、日本が得意とするハイブリッドカーや、これから市場競争が激しくなるであろう電気自動車ほか、半導体や光化学製品などに不可欠な希土類で、今後需要がさらに伸びると見込まれている資源だ。この生産量の97%は中国が担っており、中国が仮に本気で対日禁輸をやれば、日本の製造業はたしかに立ちゆかなくなるはずだ。
しかし中国の資源管理・政策に詳しい日系シンクタンクの研究者は「実際はそうはならない」と言う。 そうならない理由については、まず中国のレアアース採掘現場を理解する必要がある。
「中国のレアアース採掘現場は一種の無法地帯みたいなものですよ。北部は国営企業が大規模投資して開発しているけれど、南部は地方政府レベル、民間レベル、個人レベルが、少ない投資と安い人件費で、山奥にぼこぼこ穴をあけて掘り出している。その結果、環境破壊、水質土壌汚染がものすごく深刻です。そんな状態なので値段も統制がとれておらず密輸出も多い」
中国が世界の圧倒的シェアを占めているのは、自国の環境をぼろぼろにして低コストで採掘し安く売っているからで、余りの安さに、他の国ではばかばかしくて採掘をやる気にもならなかった、というところだろう。
前出・研究者が続ける。 「中央政府はこの無法化しているレアアース採掘現場を整理整頓する最初の手っ取り早い方法として総量規制をかける方針を決めた。そうしないと、値崩れしてどうしようもない、と。これは必ずしも日本をターゲットにしたわけではない。ところが、これに日本企業が過剰に反応して、中国側の方が、外交カードに使えるのではないか、と思い始めたんです」
で、実際、このカードを切ってみるとそれなりに効いたわけだ。
だが、この研究者は言う。 「そういうレアアース採掘現場の土壌汚染対策や精錬技術が中国はまだ不十分。地方政府レベルの採掘現場などは、日本など外国の技術と投資を呼び込み、効率のよい採掘を行ない精錬度の高い製品をつくって高く売りたい。ところが、こういう恫喝めいたことをしたために、日本はモンゴルなど他の国に投資して、中国依存脱却を図ろうという動きになってしまった」
脅しをかけたことは結局、中国にとって自国の資源開発を遅らせる結果にしかならないのだ。
※SAPIO2010年11月10日号