もし中国が対日経済制裁をした場合、困るのは中国の方だと考える中国学者も実はいるという。ジャーナリストの吉村麻奈氏がレポートする。
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中国が日本企業に依存している実態を分かっている学者たちの危機感は強い。 昨年11月、中国経営報で、三井物産に12年務めた経験のある中国社会科学院日本経済学会の白益民理事が『中国の鉄鋼業はいかに三井に支配されているか』というタイトルの論評を発表した。
その内容をかいつまんで言えば、中国の鉄鋼業界は鉱石の調達から、その鉄鋼材のユーザーである自動車メーカーへの供給に至るまで、三井物産を中核とする三井グループが網の目のように入りこんでいるという指摘であり、世界一の生産量を誇る中国の鉄鋼産業の発展により、おいしい思いをしているのはむしろ日本企業ではないか、ということなのだ。
また『2009年中国産業外資支配報告』(北京交通大学産業安全センター)によれば、中国の第2次産業の外資支配率はこの10年30%以上であり、警戒ラインを超えている、としている。早い話、中国産業の3分の1前後が外国の資本と技術とブランド力に支配されているということだ。
こんな状況で対日経済制裁などやれば、日本はリスク回避のために資金や技術を引き揚げざるを得なくなるし、そうなると立ち行かなくなる中国の製造業も出てくる。
もちろん、日本が引き揚げたあとに、欧米企業が入り込むという可能性はある。が、たとえば日本が環境技術協力をやめて、その代替にEUの企業が入ったとして、中国はEUのCDM(クリーン開発メカニズム、先進国が途上国の温室効果ガス削減を支援し、その削減量の一部を自国に割り当てる仕組み)戦略にますます揺さぶられる材料をつくることにもなる。
清華大学・野村総研中国研究センターの松野豊・副センター長はこう指摘する。 「日本のように援助だ協力だ、といった名目で技術を持ち込んでくれる国を、中国はもっと大事にすべきだと思う」
※SAPIO2010年11月10日号