「子供のいない伯父の介護を、甥の私がする義務や責任はあるのでしょうか」…そんな相談が弁護士の竹下正己氏のもとへ寄せられた。
【質問】
病気の伯父の介護の問題です。伯父夫婦に子供がいない場合、伯父の弟の子供には、面倒を見る責任や義務はあるのでしょうか。仮にあったとしても、居住地がお互い離れている場合、実際には無理だと思うのですが、介護についてどう考えればいいものでしょうか。アドバイスをください。
【回答】
病人の介護は、素人にはなかなかできることではありません。専門家に依頼せざるを得ませんから、結局、費用負担の問題になります。日常生活の面倒を見る上で、同居や近所での暮らしができないということであれば、他人に世話を頼むことになり、その経済的扶養が問題になります。しかし、甥や姪に、伯父さんの扶養義務は当然にはありません。
もし、伯父さんの奥さん(伯母)が存命であれば、夫婦の間には身上扶養を行なうべき同居・協力・扶助義務があるので、身上扶養を行ないます。婚姻費用分担義務もありますから、まず伯母さんが面倒を見るべきです。とはいえその力がなかったり、すでに亡くなっている場合には不可能です。その場合、伯父さんの扶養義務を負うのは、直系血族と兄弟姉妹です。伯父さんの兄弟が存命であれば、扶養の責任があります。
しかし民法では、特別の事情があるときは、家庭裁判所が三親等内の親族間に扶養の義務を負わせることができると定めています。甥は三親等の親族ですから、この範囲内です。
扶養義務が認められる特別の事情とは、一つは親兄弟同様に伯父さんから支援を受けた経歴がある場合です。また、祖父母が死亡したときに、子供のいない伯父さんの面倒を見る条件で優先的に財産を相続した場合なども、その限定的な場合です。通常の親戚関係であれば、甥が伯父さんの扶養を命じられる可能性は極めて小さいでしょう。
また、仮に家庭裁判所が扶養義務を命じるとしても、余裕がある範囲内で援助すれば足りる(生活扶助義務)とされるはずです。公的扶助が整備されている今日、疎遠になっている親戚への扶助は、人情に基づいて任意にするのは別として、法により強制される心配はありません。
※週刊ポスト2010年11月5日号