現在、グローバルIT企業の成功例として、日本のメディアで盛んに取り上げられる「双璧」が、アップルとグーグルだ。
前者はiPodやiPhone、iPad、後者はOS(基本ソフト)のアンドロイドや自動走行車プロジェクトなどの商品・サービスが話題を集め、そのカリスマ経営者や自由な企業文化についての報道も枚挙に暇がないほどである。
だが、いま大前研一氏が最も注目しているのは、アメリカ最大のネット小売業アマゾン・ドット・コムの戦略だという。そこにはアップルやグーグル、あるいは同じネット小売業の楽天にはない「強力な武器」がある。以下、大前氏が解説する。
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リアルとネットを併存させる場合、価格をどうするかという問題が出てくる。アメリカ最大のネット小売業アマゾン・ドット・コムはネット専業の会社に勝つために、リアル店舗よりもネットのほうを安くすることはできない。
そんなことをしたら、リアル店舗にお客さんが来なくなるからだ。要は、どちらも同じ価格にするしかないのだが、それでは現状と同じで、コストが低いネット専業の会社にはかなわない。結局、ネットに参入するなら、命がけでネットのお客さんの満足度を高めていかなければ、生き残ることはできないのである。
このようにアマゾンは、深謀遠慮の戦略をもってネット小売業を展開してきた。目下、ジェフ・ベゾスCEOの悩みは、右脳型商品(微妙な色合いや質感が決定的な意味をもつ商品、たとえばアパレルや靴、家具、食品など)をどうやって売るかということだが、最近は日本のZOZOTOWN(ファッション通販サイト)のように右脳型商品でも成功事例が出てきたため、今後はそうした専門店を買収していく可能性もある。
そうなれば「リアルとネットの相乗効果を引き出す」などと中途半端な路線をいく従来の小売業は、アマゾンの前に砕け散るかもしれない。創業時に「世界最大の小売業をめざす」と宣言したべゾスの野望は、すでに夢物語ではなくなりつつある。
※週刊ポスト2010年11月12日号