「転勤を命じられたのですが、親の介護のために、拒否はできないでしょうか」…そんな相談が弁護士の竹下正己氏のもとへ寄せられた。
【質問】
会社の合理化に伴い、地方の工場へ配置転換するという内示を受けました。家庭の事情で、単身赴任か新幹線通勤になりそうですが、できれば配置転換は避けたいところです。親の介護を理由に、転勤命令は拒否できないでしょうか。拒否した場合、解雇されることもあるのでしょうか。
【回答】
有効な配転命令に従わないと、解雇等の不利益を受ける恐れがあります。しかし、使用者が配転を命じることができるのが前提です。採用時の雇用条件で、就労地を限定していれば配転命令は無効です。雇用条件を説明して、断わればよいでしょう。ですが、たいていの会社は、就業規則などで使用者の包括的な配転命令権を付与しており、明確な就労地限定の合意がないと拒否することは困難です。
それではどんな場合でも配転命令が有効かといえば、そうではありません。最高裁は、労働者の生活に与える影響の大きさを考慮し、(1)配転の必要性がないとき、(2)必要であっても、他の不当な動機・目的でされたとき、(3)労働者に甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等は、配転命令は権利濫用で無効としています。
ご質問では、(3)が問題です。高齢者や病気の妻子の介護には同居が不可欠であり、家族を伴っての移転が被介護者の病状などからできないといったケースでは、配転命令を権利濫用とした事例も少なくありません。
育児介護休業法第26条で、事業主は配転で「子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と定めています。この規定は配転禁止を命じるものではありませんが、労働者の事情に十分配慮することを求めています。
そこで会社に対し、介護の必要性を証明する医師の診断書等の資料を添え、配転で介護困難になる事情を詳細に説明し、配慮してもらえるよう申し出ることをお勧めします。理解を得られないときは、都道府県の労働局長に相談し、助言・指導を求めるのがよいでしょう。
※週刊ポスト2010年11月12日号