人々が「新築庭付き一戸建て」を幸せのゴールとした時代は、バブル崩壊をきっかけに終わりを迎える。バブル崩壊前に住宅ローンを組んで家を買った家庭は、家の価格と給料が下がり続ける一方で、住宅ローンだけが高いまま残った。マイホームを買い求めたばかりに、20年以上たついまもその負担に苦しめられているという人は少なくない。
千葉県在住の会社員・樋口康子さん(52・仮名)は、1988年に約3000万円で2LDKマンションを購入した。結婚後しばらくは夫の実家近くのアパートで暮らしていたが、長男と次男が立て続けに生まれて手狭になり、「家賃を払い続けるよりは」と一念発起。金利が段階的に上がる35年ローンを金融公庫で組んだ。
毎月の支払いは8万5000円。将来は値上がりしたこのマンションを売って一戸建てを買う予定だった。いま樋口さんのマンションはシンク下の扉がひしゃげ、壁に穴が空き、襖が破れた状態になっている。
樋口さんの幸せが一変したのは2000年だった。長引く不況のあおりでメーカーの営業部員としてバリバリ働いていた夫がリストラにあった。
夫はうつ状態になってしまい、この10年間仕事についていない。樋口さんが働いて月20万円の給料で家族を養っている。ローンは夫の両親の年金を一部もらって返済しているという。
「家族のために購入した家がいまはお荷物以外の何物でもありません」(樋口さん)
樋口さんのような家庭は特別ではない。昨年は、住宅ローンが払えず自宅を手放してしまう「住宅ローン難民」が多数発生し、社会問題になった。そんな失敗を目の当たりにして、いま家を求める人たちの思いは多様化している。
家を買うために充分な頭金と収入があっても「家を買わないほうが幸せ」と賃貸に住み続ける家庭も増えている。埼玉県在住の会社員・田中吉宏さん(35・仮名)は、大学入学のときから17年間、ずっと賃貸暮らしを続けている。
「家を買うなんて考えられないですよ。これから先の人生が縛られちゃうわけですからね」(田中さん)
家族は2才下の妻と2才の長女。2DKのアパートに住み、月6万円の家賃を払う。妻のパート収入とあわせて月35万円を稼ぎ、約1000万円の貯金がある。住宅費にあまりお金をかけない分、家族での旅行や、趣味である車にお金をかけているという。
※女性セブン2010年11月18日号