13年も前から、ウルトラマンを題材に善悪を問う授業が行なわれている。北海道・苫小牧市の中学校で教鞭をとる名物教師を訪ねた。独特の北海道訛りで、噛んで含めるように話す。しかし、話題がウルトラマンの話になると語り口も、自然と熱を帯びていた。
「ウルトラマンというのは、源氏物語や枕草子と同じくらい叙情性に富んだ物語だと思っています。決して、子ども騙しのテレビ番組ではないんですよ」
正義とは何か、悪とは何か。北海道苫小牧市の公立中学校で国語を教える、神谷和宏教諭(37)は13年前からウルトラマンを題材に、この哲学的なテーマを説いてきた。現在、年間2~3回のペースで授業を実施しているという。
「生徒には常々“正義という言葉には気をつけろ”っていっているんです。世の中は白黒付けられないことも多いし、正義という名の下に隠れた悪もありますから。ウルトラマンも単純な勧善懲悪の物語ではないからこそ、惹かれたんだと思います」
ウルトラマンとの出会いは小学生の頃に再放送で見た『帰ってきたウルトラマン』(1971~1972年)の「怪獣使いと少年」。調査目的で地球に来たメイツ星人と孤児の少年に芽生えた友情が描かれる物語だ。終盤、宇宙人は人間から迫害を受け射殺され、それを機に別の怪獣が暴れ出す。
「人間の心の闇はウルトラマンにも解決できないんだ……」――神谷氏は、子供ながらに抱いた感情を今も覚えている。以後、同シリーズを貪るように見続けた。
大学進学を機に上京しても、“正義のヒーロー”を忘れることはなかった。源氏物語や平安文学を専攻しながら、そこで学んだ方法論をウルトラマンに応用した。すると、宇宙人や怪獣が現代社会に様々な問題提起をする存在だということが見えてきたという。
これが現在の「ウルトラマン授業」につながっているのである。
※週刊ポスト2010年11月19日号