10月10日、朝鮮労働党創建65周年記念行事の盛大な軍事パレード。取材を許可された100人以上の外国人記者たちの目は軍事パレードより、金正日の後継者、金正恩の姿に集まった。初の公式登場となった、9月28日に開かれた労働党代表者会で正恩は人民軍「大将」の称号を与えられ、労働党中央委員に選出された。専制君主国家の父子三代にわたる権力の世襲を世界中に宣言したのである。金正恩の取り柄について、関西大学経済学部教授の李英和氏が解説する。
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金正恩に取り柄は何もないのか。ひとつだけある。若さだ。大実力者の張成沢よりも長生きしそうなことは確かである。「廃位」されずに数年間もちこたえられたなら、同窓生の最側近も育つし、大勢は長生きする方になびく。そのためには持病の若年性糖尿病に気をつけることだ。祖父の物真似をして太り過ぎるのは禁物である。
もしかすると下手な物真似があだになって「廃位」を招くかもしれない。金正恩が披露していない物真似芸がまだある。父親譲りの「三大革命小組運動」がそれだ。北朝鮮版の文化大革命・紅衛兵運動で、若者で組織された金正日の私兵集団のことである。
これが学校や職場、役所や政府機関で乱暴狼藉のかぎりをはたらいた。金日成から金正日への権力移譲を早める下克上を進めた。もしも金正恩がこれを真似れば、北朝鮮の中継ぎ体制は大混乱に陥ることになる。「権力闘争の権化」とも称される張成沢が、金正恩の私兵運動を黙過するかどうか。すべては金正恩の「勘違い」の度合いに掛かる。
※SAPIO2010年11月10日号