もしも生まれ変わったら「こんな仕事に就きたい」などと思ったことが、今までにあったはず。今回は、本誌取材班が実際に脱サラしてたとえば漁師になってみた人へのルポをお送りする。現代日本の再就職支援状況と、サラリーマン時代にはない「働きがい」を得た人々の声とは――以下、ジャーナリストの高永昌也氏によるレポートだ。
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タチウオ、マグロの幼魚・シビ、ほかにタコ、エビなどを獲る。朝の4時に出港し夕方4時半に帰る。船で数日を過ごすこともある。「なにものにも拘束されず、満天の星の下でキャンプみたいです」
深津利光さん(44)は、東京・江戸川区に生まれ、20年近いサラリーマン生活のあと、長崎の五島列島で漁師になった。漁師になるのを支援してくれる制度を利用して脱サラに挑んだ。
今月11月20日にも『東京国際フォーラム』でフェアがある。「全国漁業就業者確保育成センター(03-5215-5690)」が開催する。毎回、200人以上が集まる。求人側は50~60社。ブースで面談する。30代が4割。50代以上も7~8人いる。ここに行き、漁師になる意欲が湧けば、漁港で研修を受ける、という制度である。
深津さんの話。
「五島には行ったことがなかったけど、東京のサラリーマン生活には耐えられなかったんです。1年間、師匠に学びました。『漁師はひとりでできないぞ』といわれて、みんなと酒を飲み、分からないことはなんでも教えてもらって」
月々15万円支給される。独身で、生活には困らなかった。
われらの首相が「一に雇用、二に雇用」と叫ぶまでもなく「雇用不安」はいま爆発している。〈非正規労働者〉はこの1年で全雇用者のほぼ半分の1743万人に達し、年収200万円以下が1000万人を超えているという。契約期間満了前に退職させる「雇い止め」も横行している。
しかし悲観していても、希望は生まれない。「育成センター」に問い合わせ、漁師になった人は各地にいる。矢倉佳典さん(32)は、制服メーカーや電話設備会社の営業など転職を繰りかえし、半年間の研修後、漁師になった。南房総・富浦漁協で小型定置網漁の〈乗り子〉になりイワシ、サバ、スズキ、アジの群れを追う。
「実は泳げないんです。心配でしたけど、これほど充実した人生に出会えるとは思ってもいませんでした。怪我に気をつけて、ひとつずつ学んでいます。ヒラマサやメジマグロなどの単価の高い魚が入るとワクワクしたり」
漁業支援だけではなく、各種の職業で、「再就職支援」の機関がある。各地のハローワークに問い合わせたり、パソコンで検索するのもいいが、ことに独立行政法人「雇用・能力開発機構」が各地で催す「離職者訓練」には応募が殺到している。
※週刊ポスト2010年11月19日号