裁判員制度初の死刑か無期かを問われた注目の「耳かき殺人」事件。だがそもそも殺人にいたるまで、男はどれほどのカネを遣い、女はどう応じたのか。新聞テレビが伝えない細部を、山藤章一郎氏がリポートする。
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42歳の被告は1日7時間も21歳の江尻美保さん=(源氏名・まりな)といる時があった。 耳かき店の料金は、1時間4800円。これに指名料、延長料がつく。7時間の場合は、4800円+指名料1000円(1時間ごとにつく)×7で、4万600円。
耳かきは最初の数回だけだった。膝枕もしてもらえなくなった。被告はほとんど、正座椅子に座る女の家族や友人の話を聞き、DVDを見、ゲームをし、菓子を食べて過ごした。性的サービスはなかった。からだを触ることもできなかった。
誕生日を、聞いていた。プレゼントをいつ持ってくればいいか尋ねた。「どうしても当日がいい」と答えられた。そこで勤め先の有給を取り東京駅でゼリーを買って昼前にアキバに着いた。開店は正午。
駅のホームで、まりなに会った。「早いですね」と話しかけられ「早いかな」と自分は答えた。少し遅れて店に入ると、「待ち伏せされてたの」と店の人に話すまりなの声が聞こえた。そのまま帰った。ところが5 日後、まりなのブログを開けると、「突然だけど元気かなあ、ピヨ吉」とあった。
ピヨ吉は、まりなが大事にしているひよこのぬいぐるみだ。写メにとってあるのを見せられ、ふたりで名をつけた。厭がられていないんだと思った。
予約を入れて、翌日行った。誕生日に待ち伏せしたのではないことを説明した。分かってもらえた。その1か月ほどあとから、平日の金曜にも行くようになった。「来てほしいと。何度もいわれて」
金曜は土曜の、土曜には日曜の、日曜には次の金曜日の予約をした。1日に何時間もいることも「ぜんぜん厭じゃない」と答えられ、ほっとした。
週に3日。1日に7~8時間指名した。ケンタッキーやコンビニの菓子や弁当、ホカ弁を持ち込んでふたりで食べた。 言われたものと違うものを買って行って文句をいわれた。
「海鮮丼、イカっていったのにタコ買ってきてどうすんの」この時以外にも、叱られて涙ぐんだことが、何回かあった。
月収についてたびたび訊かれた。「答えたくないのでいわなかったら、(まりなは)指で2とか3とか『これぐらい? これぐらい?』と訊いてきた」
女と過ごすためにカネと食いものを運ぶ男に、女は特別な感情もないのに疑似レンアイを見せてもっとカネを遣わせようとしたのだろうか。まりなの月収は65万4250円になることもあった。
この〈耳かき店〉のほかの女性の月収例―。
茜(21歳・仮名)、1日10時間勤務。30分コースと1時間コースを10本、指名 8本で、1日2万1600円。これを20日勤務する。43万2000円になる。
指名を増やし、居つづけの<太い客>を掴むのが収入増のカギであることはいうまでもない。口げんかになって予約をせずに帰った被告に、まりなは自らメールをする。
「さっきはごめん、次の予約は?」。これを受け、被告はまた店へ行くのであった。
※週刊ポスト2010年11月19日号