元大阪高検公安部長の三井環氏は、「99.9%」の有罪率の背景に、裁判所と検察のもたれあいがあると指摘する。
「裁判所と検察には判事・検事交流という人事交流制度がある。毎年数十人の判事が検察に出向して起訴状を書き、逆に同じ人数の検事が裁判所に出向して判決文を書く。そうして互いに身内意識ができる。だから裁判官は検事をひいきし、被疑者が法廷で『無理に自供させられた』と取り調べ段階の供述を覆しても、目の前の人間の言葉より検察調書を信用するわけです。また、検察が逮捕状や勾留延長を請求すれば、裁判所は容疑者の逃亡や証拠隠滅の可能性が低くても、“自動販売機”のように逮捕状や延長決定を出す」
元横浜地裁判事で『狂った裁判官』(幻冬舎刊)などの著書がある井上薫・弁護士の証言はもっと赤裸々である。
「裁判官も官僚だから、出世したい。だから無罪判決を出すときは非常に心配になる。無罪にして検察に控訴され、上級審で逆転されたら出世がなくなるかもしれない。経歴に傷をつけないためには、有罪か無罪か迷った場合、有罪にしておけば確率的に間違いが少ないわけです。
実際に、無罪判決を出した経験が少ないから無罪の判決文の書き方がわからない判事も多い。私も刑事事件を2000件ほど手がけましたが、無罪判決は1件だけでした。裁判官の中には、公判担当の検事と仲良くなって起訴状のデータをもらい、判決の犯罪事実を書く手間を省くためにコピペする者もいた」
検察・裁判所一体で“自動販売機”のように有罪判決が出されているとすれば、裁かれる国民はたまらない。
裁判官には検事以上の特権がある。最高裁長官の報酬は「総理大臣」と同額で検察より1ランク高く設定され、「定年まで務めれば、ほとんどの裁判官は退官前に1号俸という事務次官クラスの給料になり、次官クラスの退職金約8000万円を受け取る」(裁判官OBの弁護士)という。
そのうえ、天下り先の斡旋もある。
裁判官が定年(65歳)後に再就職を目指す場合「簡易裁判所の判事(70歳定年)」「弁護士開業」、そして「公証人」の3つの道から選ぶのが一般的だ。
そのうち公証人は法務大臣が任命権を持つ。そこで、「法務・検察と調整して公証人を希望する判事にポストを回してもらう」(同前)という。現在、全国の公証人の3割は裁判官OBだ。いわば裁判官は法務・検察から「天下り先」を提供してもらっている。
この特権を維持するためには、検察とケンカせず、有罪判決を出すしかないわけである。
※週刊ポスト2010年11月19日号