日本への憎しみだけを教育されて育った世代。それがいま、中国で「反日」を叫ぶ若者たちだ。1990年代初頭、江沢民政権が始めた「反日教育」は思惑どおり、国民の隅々までに行き渡った。だが、それ以前はそんなことはなかったと、評論家の石平氏が体験的に語る。
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中国の反日教育が江沢民政権の時代から始まったのは明らかである。それ以前ももちろん、共産党の歴史教育の一環として「抗日戦争」について学ばなければならなかった。しかし、それは、中国共産党の業績を称えることに重点を置いていたため、決して日本に対する憎しみを植えつけるようなものではなかった。
たとえば、1962年生まれの私は、大学生になるまで「南京大虐殺」という言葉を聞いたことがなかったし、教えられた記憶もない。1980年代の中国は日本と良い関係を持つという方向に政府によって誘導されており、社会の雰囲気も日本に学ぼうという時代だった。若者たちの間でも反日感情などはほとんどなかった。大学生が日本に関する展示会を行なうと、大勢の人が訪れ、反響も良かった。
ドラマ『おしん』が大流行した時代で、放映の時間帯には街から人が消えると言われた。山口百恵さんは彼女の名前を知らない人がいないほど中国で大いに歓迎され、日本同様、中国でも国民的アイドルだった。日本に対して親近感を持ち、反日感情もなかったのが80年代だったのである。
もちろん、「抗日戦争」をテーマにしたドラマも放映されていた。しかし、前述のように、中国共産党の業績を称えることが最重要課題だったため、悪役となる日本軍(人)は、どこかユーモラスで滑稽な役回りだった。
私の記憶にあるだけでも、日本軍人といえば、必ず鼻の下にちょび髭をたくわえ、口を開けば「ばかやろう」しか言わない。そういうアホみたいな存在でわれわれ中国人を笑わせてくれた。
※SAPIO2010年11月24日号