日本への憎しみだけを教育されて育った世代。それがいま、中国で「反日」を叫ぶ若者たちだ。1990年代初頭、江沢民政権が始めた「反日教育」は思惑どおり、国民の隅々までに行き渡った。いまや「反日カード」は共産党政権維持のために欠かせないものとなった。評論家、石平氏が体験的反日キャンペーンを語る。
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私が留学のため来日したのは1988年。その翌年、天安門事件が起こり、多くの学生が亡くなった。私は日本で抗議活動をしていたために、しばらく中国に帰ることができなかった。
ようやく帰国できたのは、事件発生から3年後の1992年だった。久しぶりに帰国した祖国の雰囲気は一変していた。日本に対する認識、あるいは感情的なものが80年代のものとは全く別のものとなっていたのだ。一般の民衆も大学生も、そしてかつて一緒に民主化運動を闘った友人たちも一斉に「反日」になっていた。
私は教科書や出版物、新聞記事、抗日戦争を題材にしたテレビ、映画すべてを確認した。江沢民政権はメディアを総動員して、中国的に言えば「全方位的」な反日教育を行なっていたのだ。
日本人は、ひたすら残虐な行為をする存在として描かれ、観客の憎しみの感情を喚起、煽動する。
現在、中国全土で50を超す「抗日記念館」がつくられ始めたのもこの頃だ。そのほとんどで日本軍にむごたらしく殺された中国人の蠟人形や絵画を展示しており、学生たちはそこで学ぶ。
学校の授業ではどうか。「抗日戦争」を教える時、教師は日本軍の残虐な行為を涙ながらに語り、果ては泣き崩れる。すると子供たちも泣き叫び、興奮して教科書を投げつけたり、机をひっくり返すというような集団ヒステリー状態になる。
たとえば、南京大虐殺について中国の教科書は「日本軍は南京占領後、南京人民に対し、血なまぐさい大虐殺を行ない、驚くべき大罪を犯した。〈中略〉戦後の極東国際軍事裁判によれば、南京占領後6週間以内に、武器を持たない中国の国民30万人以上を虐殺した」とある。これを読んで教師は泣きながら子供たちに説明を加えるというわけだ。
実は、教師には日本を恨むよう子供に感情的に訴える「中国歴史・教師用指導書」というマニュアルが配布されている。最近ではDVD化されているようだが、そこには、教師が「人殺しをするわ、放火をするわ、凶悪の限りだ」と叫び、子供たちに復唱させる場面もあった。抗日戦争の犠牲者数を2000万から3500万人と発表したのも江沢民だった。
※SAPIO2010年11月24日号