尖閣沖での漁船衝突事件以降、傍若無人な振る舞いを続けている中国に、日本政府は全く有効な手立てを打てていない。その無策ぶりは目を覆いたくなるようなものだが、日本のみならず世界中の国々が、この膨張する「ならず者国家・中国」に手を焼いているのが現状である。では、そんな中国の「弱点」をどう見出せばいいのか。国際ジャーナリストの落合信彦氏が指摘する。
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一党独裁の全体主義国家が本当に恐れているものは何か。それは、軍事大国であるアメリカからの攻撃でも、隣国との領土問題でもなく、「自国民の反乱」なのである。内部に抱えている「人権問題」と言い換えてもいい。言論の自由をはじめとする人間として当たり前の権利を徹底的に奪われている彼らの不満が噴き出すことを、権力者たちは何よりも恐れている。
そこが弱点になる。民衆を抑圧した独裁的な権力は、危うい均衡の上に成り立っている。どこかが崩れれば、たちまち権力者のクビが飛ぶことになる。
ソ連崩壊の2年前1989年の東欧民主化ドミノの中で12月に起きたルーマニア革命はその典型であった。民衆が政府に対して暴動を起こしたのが12月21日。ヘリコプターで首都・ブカレストを逃げ出した大統領のニコラエ・チャウシェスクが捕らえられ、公開処刑されたのはクリスマスのことだった。その間、わずか4日しかかかっていない。
民衆の不満を煽るという手法は、かつてのソ連や現在の中国が最も嫌がることに他ならない。
ソ連に対してはCIAが資金を拠出し、「ラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)」が「鉄のカーテン」を越えて西側の情報を絶えず送り続けていた。このやり方は、中国に対しても有効だと言える。
ましてや今はインターネットがある。中国当局がかけているアクセス制限をかいくぐって情報を送る努力をすべきであろう。REFがソ連のジャミングと常に戦いながら、最終的に一定の成果を収めたことに、その点は学ぶべきなのだ。
特に中国は13億人(実際はそれ以上であろうが)という巨大な人口を抱えている。一度民主化の気運が高まれば、雪崩のように共産党政府へと襲いかかることになるだろう。その「リスク」の大きさは、ソ連末期の人口が約2億人でしかなかったことからもよくわかる。
※SAPIO2010年11月24日号