菅民主党政権が、税制改革に向けて動き出した。だが、大前研一氏は、小手先の調整では、この国の企業や個人はますます疲弊するだけだと指摘する。いま必要なのは、大胆な発想の転換による「タックスヘイブン化」構想だというのである。
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菅政権が「法人税引き下げ」を柱とする2011年度の税制改正議論を始めた。菅首相が法人税の実効税率(国と地方の税率の合計)引き下げを検討するよう指示したことを受け、年末までの税制改正議論の中で法人税は引き下げの結論となる見通しだ。
一方、消費税の引き上げについては、海江田万里経済財政担当相が「何年か遅れることになると思う」と述べるなど、議論を先送りする構えである。
しかし、法人税であれ消費税であれ、もはや日本の税制は税率をちまちまと上げ下げするだけの小手先の改革では何の効果もない。今こそ税体系そのものを抜本的に刷新し、この国を「タックスヘイブン化」すべきである。
なぜなら、すでに日本は「老熟国」になっているのに、税制はすべからく日本が成長過程にあることを前提とした途上国時代のままだからである。
戦後日本や現在の新興国のように人口が急増して右肩上がりの経済成長を続けている国では、労働人口がどんどん増え、企業が大きくなって収益を伸ばし、個人も昇給するから、企業の利益や個人所得に課税すれば税収が伸びる。そして高所得者には累進課税によって重い負担を課し、それを低所得者に回す。この発想は、高度成長期の日本にぴったりで理に適っていた。
ところが、今の日本では多くの企業が低迷している。個人の昇給も止まり、この先、所得が増える可能性は低くなった。そのうえ少子高齢社会になって人口は減り続ける一方だ。となると、これから所得税は税率を上げない限り大きく伸びることがないから、極めて効率の悪い税金になってくる。
法人税も効率が悪い。その理由は、まず、払わなくて済む仕掛けがたくさんあるため、捕捉率が非常に低いことだ。しかも、「経費」については税務当局が認めるかどうかを恣意的に決めている。また、実効税率が40.69%とアメリカと並んで世界一高いため、企業は生産・販売拠点の海外移転を加速している。
さらに、そもそもこの国にはマーケットとしての将来性がない。人口が減れば、おのずと消費が萎むからである。企業が、国内では適当にやって海外で一生懸命稼ごう、と考えるのは当然だろう。法人税収が大きく伸びることもないのである。
したがって日本の税制改革は、途上国の税制から老熟国にふさわしい税制にどう変えるか、という根本的な議論をしなければならないのだ。
※SAPIO2010年11月24日号