身近にある役所の「おバカ規制」。彼ら役人による規制は往々にして、民間企業の利益や国民の利便性を損ない、税金を無駄遣いしている。元通産官僚で、行革担当大臣 の補佐官を務めた、「政策工房」の原英史氏が、理容店と美容店の法規制について解説する。
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理髪店と言えば「月曜定休」と思いがち。実は愛知県のように「火曜定休」が多いところもある。しかし、なぜ地域ごとに、共通の定休日があるのか? 起源は諸説あるが、これにも「規制」が絡んでいる。
「環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律(環衛法)」という法律がそれ。
環衛法は、戦後、理髪店や美容院、クリーニング業などの業界で過当競争が生じたことから、1957年「運営適正化」を目的に定められた。この法律によれば、都道府県ごとに「同業組合」を結成して「適正化規程」を定め、営業日・営業時間・料金などを決めることができる。〈私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の規定は、適正化規程及び適正化規程に基いて行う組合員の行為には、適用しない〉(第十条)とあり、本来は独禁法で禁止されるカルテルを認めたのだ。
こうして、都道府県ごとに「理容組合」や「美容組合」が結成され、「規程」または指導により定休日が決められることになった。組合は法律上「任意加入」と書いてあるが、事実上は「強制加入」に近かった。
例えば1960年に厚生省環境衛生部長名で各都道府県に出された、いかにも役所が出しそうな表題の通達、「適正化規程の適正なる実施について」には〈員外者が存する場合には、(中略)できる限り組合に加入するよう取り計らわれたい〉とある。また、環境衛生金融公庫(現在は日本政策金融公庫)の低利融資は組合加入が条件。結局加入せざるを得ないような仕掛けがいくつもあった。このため「月曜定休」なども、事実上ほぼ強制的に適用されたわけだ。
さすがに「適正化規程」は1998年までに全ての都道府県で廃止されたが、法律そのものは、「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(生衛法)」と名前を変え存続し、その下で各都道府県の理容組合・美容組合も存続している。
それらが髪を切る利用者にとって“見えざる手”となり、理髪店、美容院を縛っているのである。
※SAPIO2010年11月24日号