横浜でのAPEC首脳会議を前に、菅政権は中国に翻弄され続けた。日中首脳会談のドタキャンから“廊下会談”、続く前原外相への執拗なバッシングまで胡錦濤政権は総力を挙げて、日本を揺さぶりに出ていた。一連の動きの本当の標的となっているのは、「影の総理」だけでなく、今や「裏の外相」とも呼ばれる仙谷由人・官房長官だとジャーナリストの武冨薫氏は言う。
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「習近平ともホットラインができた。これで安心だ」
仙谷由人・官房長官は10月中旬、側近にそう語り、安堵した表情を見せた。尖閣諸島での中国漁船拿捕問題以来、菅政権で対中国外交を取り仕切る仙谷氏が日中関係の改善に自信を深めていたことは間違いない。
だが、それこそ、「官邸と外務省を分断する」というしたたかな中国外交にまんまと乗せられたことを意味する。
中国側の「仙谷重用」の狙いは、「親米、反中国」の姿勢を取る前原誠司・外相を交渉相手から排除し、「中国に都合のいい交渉相手」を引っ張り出して日本との駆け引きを有利にすることにあるからだ。
そうした狙いがはっきりしたのが、10月末にベトナム・ハノイで行なわれたASEAN首脳会議での日中首脳会談ドタキャン事件である。
首脳会議直前の10月27日、前原外相はハワイでクリントン米国務長官と会談して日米同盟強化を確認。クリントン長官は「日米安保条約の範囲に尖閣諸島が入ることを、再度明確にしておきたい」と表明した。
米国の後ろ盾をバックに意気揚々とハノイに乗り込んだ前原氏に、中国側は“罠”を仕掛けていた。菅首相と温家宝首相の首脳会談直前に外相会談を呼びかけ、その直後、首脳会談を拒否すると、「日本の外務省の責任者がほかの国で今回の問題を蒸し返す発言をした」と前原外相の責任にしたのである。
※SAPIO2010年11月24日号