源泉徴収制度のもと、ほとんど「必要経費」が認められず、税金は「取られるまま」となっている日本のサラリーマン。立正大学法学部教授で、税理士でもある浦野広明氏が、こうした状況を改善するためには何が必要か解説する。
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まず重要なのは、サラリーマンにとっての控除が、どうあるべきかという考え方に立ち戻ることです。
専門的には、認められる「経費」つまり控除額を決める際には、以下の4つの要素が考慮されるべきだと言えます。
●法定算出経費控除
●利子控除
●把握度調整控除
●勤労性控除
まず、「法定算出経費」ですが、これは、現在の「給与所得控除」の内容と考えればいいでしょう。つまり、スーツや新聞代など、サラリーマンであることに必要な経費です。スーツ代やカバン代など仕事と直接関係があるものは、全額経費と言えるでしょう。
次の「利子控除」。給与所得の源泉徴収は実際の納税時期より先に行なわれるため、その分の利子(今は“スズメの涙”程度ですが)も本来は控除しなくてはならない。
「把握度調整控除」は、よく“トー・ゴー・サン”と言われるように、サラリーマンは所得をすべて捕捉されているため、自営業者や農家などと公平を期すために、税を軽減するという主旨の控除です。
重要なのは「勤労性控除」です。サラリーマンは、自分の体を動かして、給料を得ています。「自らの労働力」が商品なのです。その商品を生み、維持するには、費用がかかる。その経費は本来、認められるべきです。
この「勤労性控除」の要素をさらに分解して考えると、次の3つの経費を認めることが必要です。
・労働力の支出による消耗を補充するための労働者自身の維持費
・労働者の後継者を養育するための家族の維持費
・労働力を高めるための費用
つまり、サラリーマン自身の休息のための「自宅の家賃」の一部や、家族のための経費、さらに教育費なども、「サラリーマンとして継続的に稼ぐため」に当然必要な経費になりえます。生活のために共働きをし、子供を保育園に預けて月に数万円を支払っている家庭は多いでしょう。これは働くための経費であり、「保育費控除」があってもいい。
また、アメリカやドイツの「勤務関係教育費」なども、この3つめの要素に当てはまります。日本でもビジネスマンとして成長するために必要な雑誌や書籍代、パソコン代なども経費として認められてしかるべきです。
こう見てくると、日本のサラリーマンに認められている経費の種類がいかに少ないかが際立ちます。
「源泉徴収」と「給与所得控除」はラクな制度であり、いちいち経費を申告するのは面倒だと考える向きもあるでしょう。しかし、それこそ国の思うツボ。現状は税金のことを「考えさせない」仕組みになっていますが、国民の側が、もっと意識を高めていかなくてはならないのです。
※SAPIO2010年11月24日号