身近にある役所の「おバカ規制」。彼ら役人による規制は往々にして、民間企業の利益や国民の利便性を損なっている。元通産官僚で、行革担当大臣 の補佐官を務めた、「政策工房」の原英史氏が、1000円カット専門店をめぐる奇妙な法規制について解説する。
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ここ数年、「10分1000円」などを謳い文句にした簡易なヘアカット専門店をよく見るようになった。洗髪なし、ひげそりなし、その代わり安く早く済ませられる。10分程度でサービス提供を終わらせるために、小型の掃除機のような装置で毛クズを吸い取るなどの工夫がある。
ところが、地域によっては不思議なことが起きている。シャンプーなしのヘアカット専門店に「洗髪台」が設置されているのだ。
謎の「使われない洗髪台」である。
実は、3年ほど前から全国各地で条例により「洗髪設備の設置義務付け」を定める動きが広がっている(今年10月末段階で23道県)。それに対応するため、カット専門店に洗髪台が登場しているという。
カット専門店の草分け的存在である「QBハウス」を運営するキュービーネットの北野泰男・代表取締役社長に話を聞くと、各地で義務付けられているのは、あくまで「設備の設置」。さすがに洗髪サービスを必ず行なえとまでは定めていない。
そこで、同社では「店のバックヤードに、実際には使わない洗髪台を設置」し、保健所のチェックをクリアできている。
しかし、「ムダな洗髪台の分だけ店舗面積が増えてコスト増であり、新規出店の足かせとなる。お客様の利便性にもマイナスです」(北野社長)と苦い表情だ。コスト増により事業規模の小さいカット専門店では、出店を諦めるところもある。
※SAPIO2010年11月24日号