横浜でのAPEC首脳会議を前に、菅政権は中国に翻弄され続けた。日中首脳会談のドタキャンから“廊下会談”、続く前原外相への執拗なバッシングまで胡錦濤政権は総力を挙げて、日本を揺さぶりに出ていた。一連の動きの本当の標的となっているのは、「影の総理」だけでなく、今や「裏の外相」とも呼ばれる仙谷由人・官房長官だとジャーナリストの武冨薫氏は言う。
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ハノイでの日中首脳会談のドタキャン、続く前原誠司・外相への批判は、「親米、反中国」の姿勢を取る前原外相を交渉相手から排除するための、中国側のシナリオ通りの芝居だったが、日本側はパニックに陥り、与党内からも、「前原氏はもう、外相を辞めた方がいいのではないか」(下地幹郎・国民新党幹事長)と外相更迭論が噴き出した。
まさに中国側の思う壺だろう。
改めて仙谷氏が「裏の外相」として主導した対中外交のこれまでの“成果”を見ると、いかに中国の振り付け通りに動かされてきたかがわかる。
始まりは尖閣問題をめぐる交渉だ。中国側が強硬姿勢を取ると、仙谷氏は外務省の頭越しに細野豪志・前民主党幹事長代理を“密使”として派遣し、戴秉国・国務委員と会談させて人質同然に拘束されていたフジタ社員の解放につなげた。
次に10月5日にASEM(アジア欧州会議)の会場、ブリュッセルの王宮の廊下で行なわれた菅首相と温首相の「懇談」である。これも事前に仙谷氏と戴氏との電話会談で根回しされたとされる。前原外相は蚊帳の外に置かれていた。
しかし、民主党国際局で野党時代から中国との党外交にかかわってきたベテラン議員は仙谷外交の危うさをこう指摘する。
「中国側は外務省と共産党中央対外連絡部が情報を共有しながら、正規の外交ルートでは強硬に、党ルートでは柔軟にと立場を使いわけて日本の官邸と外務省を分断しようとしている。これでは中国にコントロールされるがままだ」
実際、仙谷氏はすでに中国に大きな譲歩をしている。11月13日からのAPEC首脳会議への参加というカードを握っていた中国側は、海上保安庁が尖閣での中国漁船の行為を撮影したビデオを公表しないように要求し、仙谷氏はビデオ全面公開について「いろんな配慮からよくない」(11月1日、官房長官会見)との姿勢を崩さなかった。
問題のビデオは国会に提出されたが、視聴できたのは衆参の予算委員会理事限り。仙谷氏の“活躍”によって、中国側に狙い通りの結果がもたらされた。
※SAPIO2010年11月24日号