ライフ

ご飯にふりかけかける若者増え、日本の食が世界標準に近づく

 内外の食文化に精通するエッセイストの玉村豊男氏が、日本の食卓の未来を予見するような著書『食卓は学校である』を上梓した。そこには、食を巡る新しい家族の形が描かれている。玉村氏に話を聞いた。

*****************************

 思えばオリーブオイルなるものの存在を知ったのも、所変われば品変わる食の多様さに常識を覆されたのも、玉村氏の著作を通じてだった気がする。

「それこそ僕らが若い頃はバジリコを大葉だと思っていたし、バージンオイルは薬局で売っていたものね。それが今や普通のスーパーに数種類のオリーブオイルやパスタが並び、僕が食について書き始めた30数年前とは、情報的にも物流的にも隔世の感がある。ただ、最近のグルメ情報はどうもレストラン紹介一辺倒でしょ。ですからこれは、食に関するいろんな考え方を一通り整理しておこうという授業でもあるんです」(玉村氏)

 例えば『食の時間』。日本人は食事にかける時間が短いだけでなく、欧州人のそれが〈時系列〉で展開するのに対し〈日本の食事は平面的に同時展開します〉。

 日々の食卓でも前菜-メイン-デザートの時系列を死守するフランス人と、ご飯と味噌汁と焼魚を同列に並べる日本人では当然『食の作法』が異なり、その違いは機内食の食べ方やバイキングでの料理の取り方にも表われる。

〈ほな、これも、もろとこ〉と何でも皿に載せるおばちゃんは〈時系列のバイキング料理の皿を、空間展開の弁当箱に〉変えるなど朝飯前だ。

「さらに僕が面白いと思うのが、日本人の〈いっしょ食い〉ね。口にものを入れたままワインを飲むのすらフランスでは無作法とされるのに対し、日本人はご飯を口に入れた上で梅干しや佃煮を放り込み、いい塩梅に〈口内調味〉する。これが欧米人にはできないんですね。とはいえ最近はご飯はご飯でふりかけをかけて食べる〈ばっかり食い〉の若者が増えているらしく、〈世界標準〉に近付きつつあるともいえます(笑い)」(玉村氏)

 そうした時代の変化にも氏の態度は一貫していて、どちらがいい悪いではない。

「そもそも僕がパリに留学したのは言語学を学ぶためだったんだけど、言葉も食も同じでね。国が違えば発音も文法も無限に違い、食べ物も地域によって全く違う。でも誰かと通じ合いたいという思いは同じだし、美味しいものを食べると幸せそうな顔をするのは世界共通。つまり言葉も食も、それが人間の営みである以上、無限に違って無限に同じ。だから面白いしロマンチックなんだと僕は思います」(玉村氏)

※週刊ポスト2010年11月26日・12月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
NASAが発表したアルテミス計画の宇宙服のデザイン(写真=AP/AFLO)
《日本人が月に降り立つ日は間近》月面探査最前線、JAXA「SLIM」とNASA「アルテミス計画」で日本の存在感が増大 インドとの共同計画や一般企業の取り組みも
週刊ポスト
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト