「経営とはどうあるべきか」。松下幸之助が残した格言は多いが、国家論に関するものは意外と知られていない。彼が提言し続けたのが「無税国家論」である。「経営の神様」は国家経営の基礎となる税金をどのように捉えていたのだろうか。渡部昇一・上智大学名誉教授が紹介する。
******************************
戦後間もない頃の話だが、松下幸之助氏が新聞などのメディアで“税金滞納王”と呼ばれて非難されたことがある。当時の製造業者に課せられていた物品税に関する話で、商品を卸しても代金が支払われるのは何か月か先になるので、税金を支払う手持ち資金がないと説明したためだ。
この非難を教訓にしたのか、その後、松下電器産業(現パナソニック)はしっかり納税をするようになり、松下氏自身も昭和30年代から何度も納税者番付で1位になっている。納税者番付で1位になるということは所得が多いこともさることながら、節税などをせずに、適正に申告していたからだろう。
ただ、松下氏自身、日本の税制や税金の無駄遣いに、強い疑問を感じていたことは確かだ。高い税金を払っているのに、政府が無駄遣いしていると感じれば、人々は勤労意欲を失ってしまうという懸念を、著書などで何度も語っている。
松下氏の問題意識が結実したのが、昭和50年代に氏が提唱し始めた「無税国家論」である。税金をゼロにする方法論を提言したのだ。
昭和55年4月1日、松下政経塾の第1期生入学式で、松下氏はこう述べている。
「私は最近いろいろな機会に『日本を無税国家-税金のいらない国にしよう』ということを話しています。もちろん今すぐにというわけではなく、21世紀にということですが、これは必ずできると思うのです」
つまり、松下政経塾を創設した目的のひとつが無税国家の実現にあったと言える。
※SAPIO2010年11月24日号